荒れ球リリーバー
鼓動がドキドキと高鳴るのは。

目頭がジンッと熱くなるのは。

きっと期待してるから。

目の前に立つ投球も女癖も荒れてる、それでもどうしようもなく好きな男の口から、あの夕焼け空の下で交わした約束と同じ言葉が告げられる事を期待してるから。

動き出した形の整った薄い唇。



「志乃と結婚すること」

『しのちゃんとケッコンするんだ!』



「うそっ…セイッ…言ってたじゃない…」

この手に握る白球を渡してくれた試合からの帰り道。

「約束って、なんだっけって…。
忘れたって、言ってたじゃない…」

涙が零れ落ちないように薄暗闇の中で光るドーム球場の電飾を見上げて、震える声で反論した。

すると、近付いて来る愛おしい人の気配。

やがて、逞しい腕に体を引き寄せられ、優しくギュッと抱き締められた。

「あれは俺もガキだったから、照れくさくて忘れたふりしただけ。本当に忘れたわけじゃないよ」
< 159 / 167 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop