荒れ球リリーバー
ほんの少し空中へ視線を彷徨わせ考え込む素振りを見せた後、十年越しの疑問が紐解かれて行く。

「俺さ、高校の時って球速だけが取り柄のノーコンだったじゃん」

暴投の連続だったピッチング姿を頭に思い浮かべた。

「指名検討はめちゃくちゃ嬉しかったし、プロに入りたいって気持ちも正直あった。でもノーコンのガキが高卒下位で入団しても、使い物にならないまま即クビだなって同時に思ったんだ」

そこまで話すと抱き締める腕から優しく解放されて何故か手渡されたのは、マウンドでいつも被る帽子。

登板時に投手が使用する滑り止め剤の入った袋ロジンバッグの白い粉が付いたそれは、裏返されつばの後ろが見える状態だった。

少し癖のある筆跡で書かれた《奪還》と言う球団抱負の右隣に記された、誠一郎の個人抱負。

初めて知る志に、驚き目を見開いて勢い良く顔を上げた。

「即行戦力外の高卒男じゃ叶えらんねーだろ」

つば裏に書かれた8文字。


“志乃を幸せにする”


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