荒れ球リリーバー
「あっ。そう言えば、あの時なに話してたの?」

「あの時って?」

「ほら。キャッチャーの〇〇さんと何か話してたでしょ?」

お立ち台でも話題に上がった登板直後に見受けられたバッテリー間のやり取り。

「んー…ヒミツっす」

けれども、返って来たのはインタビューの時と同じ答えとやっぱり同じ白い歯の覗く照れ笑いだった。

「何それ。ずるい」

唇を尖らせて拗ねた表情を浮かべる私に、セイはその長身を屈ませ私の耳元に顔を近付け甘い声で囁いた。

「それよりさ、俺、志乃の飯食いたいな」

「俺んち来て作ってよ」という言葉と同時に、繋がれ指を絡める誠一郎の左手と私の右手。

なんだか上手くはぐらかされた感があるけど、
触れ合う肌の温かさに簡単に機嫌が治る私。

誠一郎と肩を並べ歩む私の足取りは、軽やかだった。
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