荒れ球リリーバー

~side 誠一郎~

取り合えず、上手くはぐらかせたかな。

隣で機嫌良く歩く志乃を見て、俺はコッソリと安堵の息を吐く。

会話の内容。志乃にだけは、絶対言えない。



それは、突然だった。

『誠一郎。今日このまま勝てば間違いなくお前がヒーローインタビューだ』

『あの、いきなり、どうしたんすか?』

ルーキーイヤーからバッテリーを組み絶大なる信頼と尊敬を寄せてるベテラン捕手の言葉に、戸惑い面食らう俺。

『そしたら、お立ち台で謝っちまえよ』

『え?』

『お前さ、今彼女とケンカ中だろ?』

『なんで…そんなこと…』

『お前、投球にもろ出るじゃん』

『……マジすか』

『大事な彼女なんだろ?』

そうだよ。

帽子のツバ裏に《志乃を幸せにする》って書くだけじゃ飽き足らず、投球前にその言葉を復唱するぐらい大切な存在だよ。
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