荒れ球リリーバー
それなのに、何も気付かず我慢させて傷付けた不甲斐ない俺に。

『早く仲直りしろよ?』

そんな資格ない。

返答する事なく俯き加減に左手の中に収まる白球を眺め黙り混むと、追い討ちを掛けるように放たれた言葉。

『でないと、他の男に取られちまうぞ』

脳裏に過るのは、昨夜の志乃の涙とその細い肩を抱き寄せる同僚の男の姿。

『俺、絶対勝ちます』

その光景に、素直な想いが口から飛び出して来る。

『志乃を他の奴に渡せませんから』

『この試合、任せたぞ。荒れ球リリーバー』

『はい!』と笑顔で頷いた俺の肩を、ベテラン捕手である彼はポンッとひとつ叩き守備位置へと戻って行った。





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