荒れ球リリーバー
挨拶もなく相変わらずちょっと失礼な華子ちゃんを今日は気にする事なく、「おはよう」とにこやかな表情のまま返した。

「シワもないし、愛読書も週刊誌じゃない」

笑顔の私の眉間とデスクに広げられた雑誌を見て、つまらなそうに呟いて来た。

「週刊誌は、元々愛読書じゃないから!」とでも普段ならツッコムところだけど、本日は上機嫌に付きそんな事しなかった。

「志乃さんって、本当にこのモデルさん好きですよね」

誌面でポージングを決める華奢で綺麗なモデル
《yuri》。

自分に対してストイックでモデルの頂点に君臨する彼女は、私の憧れの存在だ。

「今度、セイ達の試合で始球式するみたい」

来月末に迫ったプロ野球開幕。

二試合目に、ユリが始球式を行うらしい。

「じゃあ、見に行くんですか?」

雑誌を覗き込む華子ちゃんの問いに、私は首を横に振った。

超人気で即完売。

誠一郎属する在京球団の観戦チケットは、取れなかった。
< 28 / 167 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop