主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-②
息吹とふたりきりになりたい――

頭の中はそのことだらけで、百鬼夜行中にも関わらず悶々としてしまっていた主さまは、後ろを行く銀を肩越しにちらりと見て唇を真一文字に引き結んだ。


「なんだその顔は。俺に不満があるようだが」


「…お前が屋敷に現れると息吹がお前ばかり構う」


「だから来るな、とでも?それは残念だな、若葉は息吹でないと宥めすかすことができない。ちなみに実は俺も息吹に尻尾と耳を撫で回されるのが大好きだ」


「……この助平が。息吹は人妻だぞ」


「人妻だから撫で回されるな、とでも言いたいのか?それ以上の関係は持っていないだろうが。それだけで感謝されてもいい程だが」


銀は主さまに負けず劣らずの百戦錬磨。

主さまは甘んじてその肩書きを下ろしたが、銀は恐らく…健在だ。

むっとして腰に下げていた天叢雲に手をかけた主さまを嘲笑った銀は、行進の列から抜け出ると、人を襲おうとしている小物の妖を見つけてふた振りの刀を抜いて殲滅にかかった。

先を越されてさらにむっとした主さまだったが、早く息吹とふたりきりになる時間が自分には必要だと思う。


屋敷に居ては常に誰かの目があるので新婚気分に浸ることもできず――実は最近こっそり別邸を構えようと物件を探したりしている。

…誰にも打ち明けていないのでまだ秘密中の秘密だが…


「周嬢は相変わらず美しいな。今でこそ激しい気性だが、若かりし頃は息吹のように可憐で可愛らしかったというか…本当なのか?」


「…知らん。親父の言うことだ、いちいち真には受けない」


「そうなるとだな…息吹もいずれ周嬢のようになるかもしれないということだ。どうだ十六夜。想像できるか?」


思わず脚を止めた主さまは、息吹がきつい表情をして自分を罵る想像をしてみて――ぼそり。


「……有りだな」


そんな息吹にも夢中になれるはずだと冷静に呟いた主さまの肩を爆笑しながら抱いた銀は、今後もずっと百鬼から抜けずにふたりの傍に居て邪魔をしてやろうと宣言して、主さまの鼻の頭に皺を寄せさせた。
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