主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-②
どうせまた母か胡蝶と一緒に寝ているのだろう、と半分諦めながら屋敷に戻った主さまは、どの客間にも息吹の姿がないので、最終的に夫婦共同の部屋が残ってしまい、そっと襖を開けた。

部屋では息吹がひとりで寝ており、相変わらずの寝相で掛け布団はくちゃくちゃになって足元で丸まっている。

一緒に寝るとこんな寝相にはならないのだが、どうやらひとりで寝ると寝相の悪さを発揮する息吹の浴衣は太股まで捲れ上がっていた。


「…………おい、息吹。起きろ。すごい格好になっているぞ」


「………すぅ…」


「息吹。おい息吹…目の毒だ。息吹」


何度か肩を揺すっても起きず、次第にむらっとしてきてしまった主さまは、息吹に覆い被さってじっと見下ろした。

さすがに視線と気配を感じたのか、息吹の目がゆっくり開くと、おかしな状況に気づいて目が見開かれる。


「…主さま!?な、何してるの…?」


「…これからどう持ち込もうか考えている」


「何を!?」


「お前の恰好が俺を挑発している。今から頂いてしまおうと考えていた」


「だから…な、何を!?」


ぐいぐいと主さまの胸を両手で押して離れさせた息吹は、捲れ上がった浴衣を元に戻して枕を主さまに投げた。


「助平!帰って来て早々なんなのっ?お、お腹に赤ちゃんが居るんだから駄目っ」


「だから優しくする。それならいいだろうが」


…主さまも頑として言うことを聞かないことがある。

頑固な一面を全面に押し出してにじり寄って来る主さまの顔にからかう色が浮かんでいたことに気付いた息吹は、庭に通じる障子を全開に開けてにっこり微笑んだ。


「誰かが見ててもいいならどうぞ。すぐ噂話が広まると思うけど」


「……考えたな。ふん、もういい」


ふてくされて寝転んだ主さまの元に戻った息吹は、念願の膝枕をしてやりながら艶やかな黒髪を指で梳いた。


「主さまお帰りなさい。怪我してない?」


「怪我などそうそうするものか。お前こそ親父に妙なことをされていないだろうな」


「潭月さんはそんな人じゃないよ」


「ふん、どうだか。とにかく用心をしろ重たい物は絶対持つな」


「ふふ、はいはい」


目を閉じるとあっという間に眠りに落ちる。

息吹の膝枕は、最強だった。
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