主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-②
潭月はまるで我が家のように寛ぎ、大広間の囲炉裏の前で寝転がっている。

主さまに代を譲る前はもちろんこの屋敷に住んでいたので当然のことだったが――主さまとしては厄介な父親なので、今すぐにでも高千穂へ帰ってほしいと思っていた。

そしてその思いは顔に思いきり出ていた。


「なんだ十六夜。父に構ってもらいたいのか、よし来い、高い高いをしてやろう」


「ふざけるな。母上はともかく、お前は早く帰れ」


「何故周が滞在を許されて俺ひとりが帰らなければならないのだ。愛妻だけ置いて帰れるか」


愛妻と呼ばれて周の片眉が上がったのを見逃さなかった息吹は、女だけで固まって縁側でお茶を飲んでいた手を止めて周をきらきらした瞳で見つめた。


「…なんじゃ」


「お義母様は潭月さんとどうやって出会ったんですか?」


「…その話はしとうない。わたくしはあ奴めに騙されて嫁いだのじゃ。今もいつ離縁を切りだしてやろうか考えている」


「またまた!そ、そのお話…詳しく聞きたいなー。駄目ですか?駄目?じゃあ帰るまでに絶対聞き出しますから!絶対!」


わくわくしてどきどきしてきらきらな瞳で見上げてくる息吹を拒絶できず、深いため息をついた周は主さまは否定するだろうが、並ぶとうり二つの主さまと潭月をちらりと横目で見て扇子を広げる。


「十六夜がまともに育っててくれて安心したのじゃが…女遊びは止まったかえ?」


「多分…大丈夫だと思います。主さまはすっごく助平だけど、嘘はつかない人なんです。潭月さんもそうじゃないですか?」


「あ奴はわたくしを唆しつつも、胡蝶の母とも関係を持っていた。大嘘つきじゃ」


胡蝶がぷっと噴き出し、息吹が目を丸くする。

その会話が聞こえてしまった潭月は、身体をぞくっと震わせた。


「なんだか恐ろしい噂話をされている。十六夜、まさかお前は外に女を囲ってはいないだろうな」


「お前と一緒にするな。……おい息吹、どこに行くんだ?」


「父様と地主神様のとこ。主さまは親子団らんで楽しんでてね」


「待て、俺も……」


取りつく島もなく、にこやかな笑顔を振りまく晴明に肩を抱かれた息吹が裏山の方へと歩いて行ってしまった。


「可哀そうに。お前は一生晴明にいびられる運命なんだな」


「……うるさい」


その覚悟はしていたが――想像以上だった。
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