主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-②
周は以前暮らしていた屋敷内を歩き回り、部屋のひとつひとつを見て回りながら感嘆の息を漏らした。

息吹が使わない部屋を含めて毎日掃除をしているのだと聞いて、ここに住んでいた時はろくに掃除もしていなかった自分に苦笑しつつ、屋敷が喜んでいるようにも見えた。


「付喪神が増えた。息吹に大事にされておるようじゃな」


飾ってある壺や掛け軸――

全てに魂が宿り、埃ひとつない部屋を喜んでいるのがわかる。


息吹が地主神のところへ行っている間に感謝の意を込めて団子でも作ってやろうかと台所へ向かおうとすると、廊下で赤い着物を着たおかっぱ頭の小さな女の子と出会った。

もう随分前からこの屋敷に住んでいる座敷童だ。


「座敷童…久しぶりじゃ、元気そうじゃな。わたくしを覚えているかえ?」


「もちろん。お前がここに住んでいた時よりも快適に過ごしているとも。ここは明るくなった」


「ふん、わたくしはろくに掃除もしなかったからな。それでもそなたはここに住んでくれていた。これからもそうかえ?」


手を伸ばしてきた座敷童と手を繋いで囲炉裏の前に座ると、主さまと潭月は庭に降りて息吹の代わりに花の水遣りをしていた。

胡蝶は買い物に出かけたらしく、周と座敷童はのどかな風景を眺めつつ、屋敷の主が変わるとこうも雰囲気が変わるものかとまた感嘆していた。


「…ここは、もっと明るくなる」


「なんじゃそれは。予言か」


「お前の息子は子沢山に恵まれるだろう。わたしが紛れ込んでも分からぬほどに」


「そんなにか。何人じゃ」


思わず身を乗り出した周は、不敵な笑みを浮かべて腰に下げた鈴をちりんちりんと鳴らしながら部屋を駆け回る座敷童に尋ねたが、答えは無い。


「とにかく沢山だ。沢山沢山」


そして廊下の方へと走って行くとそのまま姿を消して戻って来なかった。

周は庭に居る淡泊な顔立ちの息子を見つめると――久方ぶりに噴き出して笑った。


「ふふふ、沢山か。紛れ込んでも分からぬほど………ふふふふっ」


――沢山すぎる。

淡泊そうに見えてもさすが潭月の子というべきか、思わず納得してしまった周は主さまと潭月をぞくっとさせるほどに笑った後、台所に行って当初の目的を開始した。
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