主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-②
晴明と共にお参りを終えた息吹が屋敷へ戻ると、台所には周が立っていた。

慌てた息吹は急いで草履を脱いでこけつまろびそうになりながら隣に立ち、鍋の前に立っている周から箸を奪おうと手を伸ばす。


「お義母様、私がやりますからっ」


「よいよい、わたくしに任せなさい。そなたは今後忙しくなるのじゃから、わたくしの手も頼りなさい」


「え…?お義母様…なんのお話ですか?」


上機嫌に微笑んだ周に頬を撫でられてぽっとなってしまった息吹は、すごすごと台所を後にして縁側に座った。

頬の赤い息吹が熱を出したのかと心配した主さまが何のかんのと理由をつけて構おうとしてくる潭月の手を振り払って息吹の隣に移動して額に手をあてる。


「どうした、顔が赤いぞ」


「お、お義母様からほっぺ撫でられちゃった。なんかよくわかんないこと言われたけどご機嫌みたい。ご厚意に甘えちゃっていいのかな」


「そもそもお前が身籠ったことを祝うためにやって来たはずだ。ぞんぶんに甘えておけ。…言っておくが親父には…」


「はいはいわかりました。ねえ主さま、今夜はお揃いの赤い髪紐をつけて百鬼夜行に行ってね。結んであげる」


夫婦共同の部屋に一旦入った息吹は、引き出しからお揃いの赤い髪紐と櫛を取り出して主さまの背後に座ると、つけていた黒い髪紐を取って優しく髪を梳いた。


「潭月さんみたいに短い髪もとってもよく似合うと思うけど、切っちゃったらお揃いの髪紐つけれないから切らないでね」


「…ああ、わかった」


主さまがぽんと懐を叩くと、ちりんと鈴の音がした。

とても懐かしい鈴の音に息吹の頬が緩み、主さまの髪をゆるくまとめてお揃いの髪紐で結ぶと隣に座って脚をぶらぶらさせる。

息吹の肩を抱こうか抱くまいか腕を伸ばしたり引っ込めたりしていると、出かけていた胡蝶が包み紙を息吹に差し出した。


「胡蝶さん?これは…なあに?」


「金平糖よ。一緒に食べようと思って買ってきたわ。十六夜、お前も食べなさい」


「…こんな可愛らしい菓子が食えるか。あまり好きじゃな……むぐっ」


息吹に無理矢理金平糖を口に押し込まれた主さまがむせると、息吹が楽しそうに笑った。

――息吹は実の親を知らない。

だからこそ、両親が滞在している間は我が儘を言わずに息吹が喜ぶようなことを沢山してやろうと思った。
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