主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-②
胡蝶はすっかり打ち解けた。

自ら潭月に近付くことはなかったが、それでも話しかけられればぎこちなく答えるようになり、周とは実の親子のように話している。


息吹とふたりきりになるためには夫婦共同の部屋に引っ張り込むしかないので、ことあるごとに息吹を連れ込んでは昼寝をさせたり美味しい菓子を食べさせたりと甲斐甲斐しい。

そして潭月たちがやって来てから1週間が経った時――


「…主さま……」


「なんだ」


「なんか…なんか……気持ち悪い…かも…」


昼寝をさせようと思って床に横にさせていた息吹の顔色が真っ青になり、両手で口を覆うと急いで起き上がって台所に駆け込んだ。

驚いた主さまが息吹を追いかけて台所へ行くと、水を張った盥の前で前かがみになって嘔吐している姿を見て一気に冷や水を浴びせられた気分に陥り、息吹の両肩を抱く。


「お、おい…大丈夫か!?」


「うぅ…っ、げほごほっ」


苦しそうに何度も吐こうとしているのだが何も出ず、逆にそれが苦しそうで背中を擦ってやっていると、騒動に気付いた周と胡蝶が様子を見に来た。


「何事じゃ」


「わからない。息吹が急に気分が悪いと吐いて…」


周と胡蝶は顔を見合わせて訳知り顔になり、ひとり事情が分かっていない主さまは苛立ちを募らせて2人を睨む。


「俺にわかるように説明しろ」


「十六夜…それはつわりじゃ。いよいよ本格的に腹の中で子が育ち始める。しばらくは収まらぬ」


「…こんなに苦しそうなのに…しばらく続くのか!?」


語気を荒げると、ようやくつわりが収まった息吹は身体を起こして口をゆすいで弱々しい笑みを浮かべた。


「びっくりした……。これがつわりなんですね」


「晴明の煎じた薬でいかほどか弱めることはできようが…食欲も無くなれば常に身体もだるくなる。わたくしはそうじゃった」


周の説明よりも先に息吹を横にさせたくて、息吹を抱き上げて夫婦共同の部屋へ連れて行くと横にさせた。

何故か笑っている息吹の鼻をつまんだ主さまは、一緒に横に寝転がると、心配でたまらなくて声を詰まらせる。


「…何が…おかしい?」


「だって…なんか嬉しくて。本当にお腹の中に赤ちゃん居たんだね。私と…主さまの…」


妊娠して、母となる。

息吹は感動に身体を震わせた。
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