主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-②
それからというものの、主さまは晴明から貰った巻物の熟読を始めた。

巻物にはご丁寧に絵で解説されているものもあり、女性の身体の神秘に触れた主さまは、こんな小さな身体の息吹からもうひとり赤子が現れるという事実を未だ呑み込むことができない。


「…息吹、卵粥を持ってきてやったぞ。少しでいいから食え」


その匂いでさえも不快感を感じるのか、息吹は手拭いで鼻を押さえて起き上がる。

ほかほかで湯気の上がる卵粥は本来息吹の大好物なのだが…今はそうではないらしく、それでも気丈に笑みを見せた。


「じゃあ…ちょっとだけ…。主さま、ふぅふぅして」


「…我が儘な奴だな。今だけだぞ」


匙に少量を掬って息を吹きかけて冷ましている間、息吹は鼻を押さえつつも目元が…完全に笑っている。

妖を束ねる王にこんなことをさせることができるのは息吹だけで、尻に敷かれている自覚がありつつも、なるたけ息吹の頼みごとは断らないように心がけていた。


「ほら、食え」


「……ん、美味しい。匂いが駄目なだけなのかも」


「お前は最近漬物を食ってばかりだろうが。米もちゃんと食え」


「だってお漬物だったらどれだけでも食べれるんだもん。父様がくれた巻物には食べ物の好みも変わるって書いてあったし…」


「…とにかく吐いてもいいから食え。太らなければいけないのにお前少し痩せたぞ」


意外とちゃんと見られていることが嬉しかった息吹は、卵粥を頑張って半分ほど食べると横になって主さまの細い人差し指をきゅっと握る。


「わかってるんだけど食べられないんだもん。ねえ主さま…主さまは子煩悩になりそう?それとも俺の背中を見て育てって感じ?」


――思えば父の潭月にはどちらかと言えば物心ついた時から構われっぱなしで、それが逆効果で父親が苦手になった経緯がある。

遠い目をしてしまった主さまの指を握ったまま揺すると、ふっと笑った主さまは肩を竦めておどけて見せた。


「干渉しすぎず離れすぎずに愛する。親父みたいになりたくないからな」


「ふふふふ、そんなにうまくいくのかなあ?主さま一緒に寝ようよ」


本来寝るのが大好きな主さまは言われた通り布団に潜りこむと、息吹を抱きしめて胸に顔を埋めさせた。


つわりで苦しむ息吹の助けになってやりたい。

我が子を無事にこの腕に抱きしめるためにも、できることは全てやろうと決めていた。
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