主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-②
息吹が頻繁に寝込むようになってからは、夫婦共同の部屋では世話をしにくいからという理由で息吹の床は客間に移された。
客間からは裏庭がすぐで、残念ながら息吹が丹精込めて植えた花を見ることができないが…花を愛でるどころではなくなっていた。
「…また吐いた。晴明、お前が煎じた薬だが効いていないんじゃないのか?ちゃんとした薬師に調合を…」
「私を愚弄する気か?私がそこらの薬師よりも劣っているとでも言いたいのか?冗談にしては笑えぬ」
ぞっとしてしまうほどの冷笑を見せた晴明はつわりに苦しむ娘のために、大体の仕事道具を主さまの屋敷に持ち込んでいた。
今もすり鉢とすり棒を手にごりごり音を立てながら薬を調合して粉塵をまき散らしている。
主さまは着物の袖で鼻を押さえつつ、何度も客間と縁側の行き来を繰り返しては潭月に笑われていた。
「初産のつわりはことさらつらいと聞くが、まるでお前がつわりに苦しんでいるようじゃないか」
「…代われるものなら代わってやりたい。息吹の顔色が真っ青で…最近はろくに何も食っていないんだ」
「で、お前が今手に持っているのはなんだ?」
「胡蝶に買いに行ってもらった。…飴玉だ。甘いものを食うと少し具合がいいと息吹が言っていた」
主さまの手の中でかさりと音を立てた包み紙の中から金色に光る飴玉が数粒出てきた。
晴明と共に客間へ行くと息吹が苦しそうに咳をしていたので身体を起こして背中を擦ってやる。
「大丈夫か、息吹」
「うん…大丈夫…。私はいいけど…赤ちゃん…苦しんでないかな」
「大丈夫だとも、つわりは子が順調に育っている証だ。さあ、帯を緩めてやろう。締め付けるのはよくないからね」
言われるがままに晴明に帯を緩められた息吹は真っ青な顔色だったが、主さまが無言で差し出した包み紙を見て瞳を輝かせた。
「それ…飴玉?わあ、買ってきてくれたのっ?」
「…胡蝶に買いに行かせた。息吹、冷や飯や冷たい汁も匂いが出ないから良いらしい。後で山姫に作らせるから食ってくれ」
すぐさま飴玉を口に入れてからころ鳴らして嬉しそうにしている息吹にほっとした主さまは、傍らに座って手を握る。
その間晴明は息吹の脈を診たり熱を測ったりして診察をすると、部屋を出て行った。
「父様…今ここに住んでくれてるんだってね。私迷惑かけちゃってる…」
「迷惑なんかじゃない。ここを乗っ取るためのいい口実と思っているかもしれないぞ」
ぷっと笑った息吹に笑い返した主さまは、飴玉をひとつ口に放り込んで懐から巻物を取り出すと、熟読を再開した。
客間からは裏庭がすぐで、残念ながら息吹が丹精込めて植えた花を見ることができないが…花を愛でるどころではなくなっていた。
「…また吐いた。晴明、お前が煎じた薬だが効いていないんじゃないのか?ちゃんとした薬師に調合を…」
「私を愚弄する気か?私がそこらの薬師よりも劣っているとでも言いたいのか?冗談にしては笑えぬ」
ぞっとしてしまうほどの冷笑を見せた晴明はつわりに苦しむ娘のために、大体の仕事道具を主さまの屋敷に持ち込んでいた。
今もすり鉢とすり棒を手にごりごり音を立てながら薬を調合して粉塵をまき散らしている。
主さまは着物の袖で鼻を押さえつつ、何度も客間と縁側の行き来を繰り返しては潭月に笑われていた。
「初産のつわりはことさらつらいと聞くが、まるでお前がつわりに苦しんでいるようじゃないか」
「…代われるものなら代わってやりたい。息吹の顔色が真っ青で…最近はろくに何も食っていないんだ」
「で、お前が今手に持っているのはなんだ?」
「胡蝶に買いに行ってもらった。…飴玉だ。甘いものを食うと少し具合がいいと息吹が言っていた」
主さまの手の中でかさりと音を立てた包み紙の中から金色に光る飴玉が数粒出てきた。
晴明と共に客間へ行くと息吹が苦しそうに咳をしていたので身体を起こして背中を擦ってやる。
「大丈夫か、息吹」
「うん…大丈夫…。私はいいけど…赤ちゃん…苦しんでないかな」
「大丈夫だとも、つわりは子が順調に育っている証だ。さあ、帯を緩めてやろう。締め付けるのはよくないからね」
言われるがままに晴明に帯を緩められた息吹は真っ青な顔色だったが、主さまが無言で差し出した包み紙を見て瞳を輝かせた。
「それ…飴玉?わあ、買ってきてくれたのっ?」
「…胡蝶に買いに行かせた。息吹、冷や飯や冷たい汁も匂いが出ないから良いらしい。後で山姫に作らせるから食ってくれ」
すぐさま飴玉を口に入れてからころ鳴らして嬉しそうにしている息吹にほっとした主さまは、傍らに座って手を握る。
その間晴明は息吹の脈を診たり熱を測ったりして診察をすると、部屋を出て行った。
「父様…今ここに住んでくれてるんだってね。私迷惑かけちゃってる…」
「迷惑なんかじゃない。ここを乗っ取るためのいい口実と思っているかもしれないぞ」
ぷっと笑った息吹に笑い返した主さまは、飴玉をひとつ口に放り込んで懐から巻物を取り出すと、熟読を再開した。