主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-②
うつらうつらしていた息吹は、手に何かふかふかのものがあたったのでまどろみながら目を開けた。

換気を、と先ほど主さまが裏庭に通じる障子を開けていたので、そちらに目を遣ると――銀が若葉を膝に乗せてあやしながらうっとりするほど優しげな微笑を浮かべて見下ろしていた。


「起きたか。十六夜は今席を外しているから俺が代わりに見ている。どうだ具合は」


「うん、これ触ってたら具合が良くなるかも」


「助平め。俺が興奮しても知らないからな」


手にあたっていたふかふかのものの正体は銀の尻尾で、手触り抜群の尻尾をにぎにぎしていると、若葉が銀の膝から這い出て懐に潜り込んでくる。

母のように思ってくれているであろう若葉を抱きしめてやると、銀は少し唇を尖らせて障子を閉めて腰を上げた。


「冷えてきた。火鉢に火を入れてやろう」


「主さまはどこに行ったの?雪ちゃんは?母様は?父様は?潭月さんたちは…」


「心配するな。皆お前の具合が悪いからここへ来るのを遠慮しているんだ。どうだ、少し起きてみないか?」


主さまが提案した冷や飯と冷え汁を食べて少し元気の出た息吹は、身体を起こそうとしてよろけそうになり、銀に抱き上げられて慌てた声を上げた。


「だ、駄目っ、主さまに怒られちゃうっ」


「怒られるのは俺だけだ。いいからじっとしていろ」


若葉を抱っこした息吹が銀に抱っこされて団子状態になりながら大広間へ行くと、すぐさま雪男が駆け寄ってくる。


「大丈夫か?つわりは……」


「うん、まだ収まってないんだけどずっと寝てるのも悪いらしいから…。銀さんありがと」


主さまに見つかる前にと縁側に下ろしてもらった息吹は、肩に羽織をかけてくれた周を見上げて頭を下げた。


「お義母様…ありがとうございます」


「つわりはまだまだ続く。そなたのつわりが治まるまではわたくしは帰らぬ。今が我が儘の言い時じゃぞ。何でも言いなさい」


「はい。えへへ…」


照れ笑いを浮かべててれてれしていると、どこかへ出かけていた主さまが戻って来た。

一緒に連れて行った猫又の背中には何やら大量の包み紙が乗せられている。


「主さまお帰りなさい。猫ちゃんの背中の…なあに?」


「……お前が好きなものを買ってきた」


「水ようかんにゃ。飴玉にゃ。金平糖にゃ!主さまが顔を真っ赤にして買ってたにゃ!」


猫又に全部ばらされて耳を赤くした主さま、ぼそり。


「………恥ずかしかった」


息吹の顔に満面の笑顔が浮かんだ。
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