主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-②
息吹を膝に乗せて話をしているうちに、息吹がうとうとして眠ってしまった。

主さまは座椅子に背中を預けながら息吹の身体を抱きしめて寝顔を覗き込む。


――晴明に攫われてから自分を含め皆がどれだけ狼狽したか…

今頃どんな姿に成長して美しくなったのだろうか、と毎日のように思いを馳せては屋敷中暗い空気が立ち込めていたこと――


息吹が幼かった頃、絵師に描かせた絵を長年懐に忍ばせて眺めてはため息をついた日々。

そして晴明に唆されて姿を消して息吹に会いに行った時、想像以上に美しい娘になっていたことでどれだけ動揺したことか。


「…お前は俺を驚かせる名人だな」


「…むにゃ…」


何事か寝言を言って子供のように抱き着いてきた息吹が可愛くて思う存分撫で回しながら、今後も苦しめられるであろうつわりの対処をしっかりとしなければと巻物を手に読み進める。

元々読書は好きなので黙々と読んでいるうちに、1時間ほどすると息吹が起きてしまった。


「起きたか。まだ寝ていてもいいぞ」


「なんか…主さまの体温が気持ちよくてすごくぐっすり眠れちゃった。主さまありがと」


完全に油断していた主さまは、いきなり息吹に角が生える額の脇を撫でられて身体から力が抜けきってしまう。


「お、い…っ、やめろ!」


「主さま可愛い。ねえ、私が主さまと夫婦になったこと…主さまは昔から知ってたの?」


何を尋ねられたのか一瞬わからなくて呆けてしまった主さまは、ふっと笑って息吹の首筋に顔を埋めて牙で肌を撫でてぞくっとさせた。


「…わかっていたとも。お前を拾った時からお前は俺の物の何物でもなかった。晴明に攫われていなかったとしても、夫婦になっていたはずだ」


――きっと食えなかっただろう。

息吹が手元ですくすく育ち、美しくなっていくにつれて日増しに悩みも大きくなっていたに違いない。


「ふうん、そうなんだ。主さまって昔から私のこと大好きだったんだね」


「う、うるさい。もういいから床に横になれ。眠るまで傍に居てやる」


照れて顔を背ける主さまが面白くて笑いが止まらなくなった息吹は布団を被って笑い続けてまた主さまに怒られた。


「おい、いい加減俺をからかうのはやめろ」


「はーい」


その後主さまは約束通り、息吹が眠るまでずっと傍に居てくれた。
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