主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-②
潭月は超がつくほどの子煩悩だった。

ただ不器用だったので、猫可愛がりしてべたべたに愛でてからかいまくっているうちに――愛している息子から敬遠されてしまったという経緯の持ち主だ。

今回その息子が妻を娶り、さらには子まで身籠ったとはっては、その不器用さがまた発揮される時だ。


「ね、ねえ主さま…部屋の隅にある山の話なんだけど…」


「…あれか。あれのことは放っておけ。まだ使えないと何度も言っているのに毎日せっせとどこかから買ってくる」


寝過ぎて背中が痛くなった息吹が座椅子に座って主さまと談笑していると、ついにその“山”が話題に上がった。


山とは――潭月が生まれてくる孫のために毎日買い集めて来る赤子用の襁褓や産着、そして玩具などだ。

その中には息吹が好きそうだという勝手な理由で干菓子や、酸い食べ物が好きになったと何気なく口にしたことで各地の名店で買ってきた梅干しなど…とにかく山が形成されていた。


「なんだか申し訳ないし、それにまだまだ生まれないよ?この部屋全部が山になっちゃうんじゃ…」


「そうなったら違う部屋に移ればいい。とにかくあいつは加減を知らないんだ。…俺は絶対ああはならないからな」


「またそんなこと言って。親子はどうしても似ちゃうものだよ?せっかくだから主さま、あの中から梅干し取って来て」


言われた通り梅干しが入った壺を持って来てやった主さまの手から壺を受け取って一粒梅干を口に入れた息吹は、その甘酸っぱさに顔をしかめながらも口いっぱいに広がる旨味に身体を震わせる。


「美味しいっ。主さまも食べてみて、ほらっ」


「俺はいい……むぐっ」


無理矢理口にねじ込まれた梅干しは確かに絶品だった。

酸っぱさに何も喋れなくなって息吹がにやにやしていると、件の男がひょっこり顔を出して主さまを見つけてしまい、いそいそと部屋へ入って来る。


「…お前はあっちに行け」


「なんだそう邪険にするな。どうだその梅干しは。美味いだろう?」


「潭月さん…これ高かったんじゃないですか?すごい美味しいし何粒でも食べれるかも」


「高い安いの問題じゃない。俺は俺のできることを最大限にやる。それに買い物とは意外に楽しいものだ。十六夜、明日は一緒に…」


「断る。早くあっちに行け」


邪険にされても嬉しそうにしている潭月。

息吹は潭月に主さまの未来を見た気がして笑いが止まらなくなった。
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