主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-②
「息吹、これを砕いて飲むと滋養に良いらしい。晴明に渡しておくから飲んでくれよ」


「ありがとう、じゃあ試してみるね」


主さまが百鬼夜行に出る時間になると、息吹は大広間を通って庭の見える縁側に座って百鬼たちと言葉を交わす。

彼らの主はもちろん主さまだが、息吹とこうして会って言葉を交わすのが日常なので、息吹もそれを欠かさない。

特に最近は潭月だけでなく百鬼たちの土産物も後を絶たないので、それに関しては晴明と主さまが分別をして太鼓判を押したものは息吹の為に使われている。


「さあ息吹、今夜は十六夜と胡蝶が幼かった頃の話をしてやろう」


「わあ、楽しみっ。あ、主さま行ってらっしゃい。気を付けてね」


「……潭月…余計なことを話すとただでは…」


主さまが凄もうと詰め寄ったが、息吹は潭月の前にちょこんと正座をしてわくわくしながら話を待っている。

また潭月がそれをさも自慢そうにしてにやりと笑ったので、気が気でない主さまだったがすでに送り出されたとあって仕方なく空を駆け上がった。


「ふふふ、これだから息子をからかうのはやめられん」


「あんまりいじめないで下さいね?主さまも本当は潭月さんのこと好きだと思うし…」


「それよりも十六夜の話だけではなく私の名も挙がったけれど」


少しずつ会話に参加しつつある胡蝶は、寝ている若葉を抱っこしてあやしてやりながら潭月を睨んだ。

だが何事にも動じない潭月は、主さまを壮年にしたような凛々しい美貌に悪戯っ子の笑みを浮かべて息吹をうっとりさせると、ごろんと横になって牙を見せて笑った。


「寝小便の話だ」


「え!?どっちが!?主さまが?それとも…」


胡蝶の瞳がすうっと細くなったが息吹はそれに気付かずどきどきしながら見つめると、周は火鉢に火を入れて息吹の方へ引き寄せると、懐かしさに頬を緩める。


「普段寝小便などせぬ胡蝶がいたしてしまった朝、十六夜は敷布団を引きずってわたくしに寝小便をしたと言った。十六夜も1度も寝小便などしたことがなかった故わたくしは驚いたものじゃが、この子は優しい子じゃと涙ぐんだものじゃ。父はこれでも子は真っ直ぐに育つ」


「俺は俺なりに愛して育てたはずだが?」


「それが間違いだと言うておる」


また夫婦喧嘩が始まってしまったが、主さまが間違いなくいい父親になるだろうと確信している息吹は腹を撫でながら昔話を楽しんだ。
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