主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-②
主さまが居なくなって心細くなった息吹は、もそもそと身体を起こして力なくため息をついた。

身体に全く力が入らないし、体調が良い時と悪い時の差がありすぎてつらい。

世の妊娠した女性たちが皆同じ思いをしているのかと思うと頑張らねばと思うのだが…まともに眠れないし、晴明が煎じてくれる薬も一時的なもので申し訳ない。


「どうしよう…いつまで続くの…?」


不安でいっぱいになって膝を抱えてうずくまっていると、裏山側に通じる障子の方でのほほんとした男の声が聞こえた。


「童はまだ戻っておらんのか。儂の方が先とはなあ」


「え……?だ、誰…?」


そっと障子を開けてみた息吹は――縁側に烏帽子を被って背中を丸めた男が座っているのを見つけて少しだけ緊張した。

だが男が振り返ると、立派な髭を蓄えたいかにも好々爺という感じの老人だったので警戒を解いて首を傾げる。


「あなたは…?」


「儂か?儂はなあ…ほら、あれじゃよ。この山のてっぺんにある祠の主じゃ」


「…え!?もしかして…地主神様!?」


「ほっほっほ」


のんびりとした笑い声を上げた地主神らしき老人は、目を真ん丸にしている息吹ににっこり笑いかけて髭を撫でた。


「そなたが訪ねてくれるようになってからは毎日が楽しくてのう。儂に願い事をしたじゃろう?願いは叶ったが、つらいか?」


「地主神様…やっぱりあなたが赤ちゃんを授けて下さったんですねっ?ううん、つらくなんかありません。幸せです」


「嘘をつくでない。そなたが苦しんでいるからどうにかせいと童が毎日訪ねてきよる。童め、そなたにすっかり牙を抜かれておるな」


「童…?童って……」


息吹がきょとんとしていると、また地主神がほっほっほとのんびり笑った。

その時裏山から主さまが降りてくるのが見えてまた息吹の目がまん丸になり、声を上げて主さまに声をかける。


「主さまっ?地主神様の祠に行ってたの?」


「……見つかってしまったか。…なんだお前は。息吹に近寄るな」


「この童め、儂がわざわざ訪ねてやったというのになんじゃその態度は」


「…?」


噴き出した息吹がくすくす笑い、意味のわかっていない主さまは好々爺を睨みつけながら眼前に立つ。


「大きゅうなってからに。訪ねてこなんだお前を長らく待っておったのじゃぞ」


訝しむ主さまの顔に、地主神はまたほっほっほと笑っていらっとさせた。
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