主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-②
「俺をいつまでここに閉じこめる気だ…。いくらお前が有能であろうとも、俺の邪魔をすると…殺すぞ…!」


酒呑童子からごうっと殺気が噴き出て柵越しに立っていた茨木童子の髪を揺らした。

岩山をくり抜いた最奥には強力な妖封じの札を柵に貼った牢があり、そこに昏い瞳をした酒呑童子が茨木童子を睨みつけていた。

茨木童子側には何人もの妖の骸が転がり、酒呑童子をここに閉じこめるために昼夜問わず結界を張り続けて力果てた妖のなれの果ての姿に視線を落としつつ首を振る。


「それはできません。あなたはご自身に起きていることを理解しておられない」


「ふざけるな。俺のことは俺が一番わかっている。…椿姫に会いに行く。ここから出せ」


「やはり理解しておられない!椿姫…いや、椿という女はあなたを駄目にしている。ここから出すことはできません。俺はあなたを治療しなくては」


「はっ、治療だと?俺はどこも悪くない。じゃあここに椿姫を連れて来い。あれは神社から出ていないだろうな?お前には椿姫の監視を命じたはずだぞ。何をしている!」


――椿姫に執着し続ける酒呑童子。

その感情が椿姫を食い物としてではなく恋愛感情だと知ったのはもう随分前のこと。

それから少しずつ様子がおかしくなってきた酒呑童子を支えつつ椿姫を監視していた茨木童子は、酒呑童子がつい名を口にしてしまった百鬼夜行の主が乗り込んできた後敗走して共にいっときの間だけ北へと逃げた。


酒呑童子はすぐに神社へ戻ろうとしたが――これが好機だと踏んだ茨木童子は、様々な理由をつけてこの岩山へと誘い込んで…封じた。

それからの酒呑童子の抵抗は凄まじく、仲間を封じ込める力を持つ妖たちが今まで何人死んだことか――


だが酒呑童子は明らかに今までとは違っていた。

少しずつ違和感が募っていた茨木童子は、その原因を椿姫に見た。


「…最近体調がおかしかったはずだ。そうですね?」


「だから何だ。お前に関係のないことだろうが」


「あなたが椿姫を捕らえた頃からだ。…血を吐いたり痛みを感じたことは?」


酒呑童子が柵にゆっくり近付く。

逆に茨木童子は一歩下がって距離を置くと、雷を打たれたような痛みと衝撃が走っている柵を握った酒呑童子は、牙を剥き出して邪悪な微笑みを見せた。


「椿姫のせいだと言いたいのか?…だから何だと言うんだ!俺は俺の好きにする!ここから出せ!」


――わかっていた。

椿姫を食ってからおかしくなり始めていたことに。
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