主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-②
主さまの腹に空いた大穴は、地主神の薬によって飛躍的に回復して塞がっていた。

その間百鬼夜行は銀が代行することとなり、いつもなら皮肉のひとつは必ず言う銀だったが、黙々と代行をこなしていた。

その理由とは…


「おお朔、今日も元気にしていたか?」


「…」


「よし、今日は俺が襁褓を替えてやろう。どれどれ」


「……おい」


「しかし十六夜に似てしまうとは将来女泣かせの男になりそうだな。息吹よ、今のうちから覚悟しておいた方がいいぞ」


「………おい、朔を返せ」


てきぱきと襁褓を替え終えてすっきりした顔をしている朔を抱っこしてあやしていた銀に剣のこもった言葉を発したのは、もちろん主さまだ。

ふかふかの真っ白な尻尾と耳を上機嫌にぴょこぴょこさせていた銀は、唇を尖らせてちらっと主さまに視線を投げるとぷいっと顔を逸らして抵抗を示す。


「朔ちゃんも銀さんが大好きだもんね。し、銀さんこっちに座って。早く早く」


「………」


息吹が銀の尻尾と耳に夢中なため、さらに主さまの機嫌が悪化。

庭に降りている銀を呼び寄せようと手を伸ばしているその手を握って手元に引き寄せた主さまは、銀を睨んだ。


「今夜からは復帰する。今までご苦労だったな」


「そうなのか?まあそれはいいが…晴明はどうした?ここ数日顔を見せていないようだが」


「父様どうしたんだろ…。椿さんたちのことで調べ物してるとは聞いてたけど…」


息吹が表情を曇らせると、銀は息吹に朔を戻して隣に座り、尻尾で息吹の手をくすぐった。


「あれはお前の笑顔を見るためならば何でもするだろう。ああ、そこの仏頂面をしている奴もだろうが」


「……あの血臭は晴明でも落とせない可能性がある。あいつも万能じゃないからな」


「誰が万能ではないのかな?」


突如含み笑いを帯びた声を背中に投げかけられた主さまは、思わずびくとなって恐る恐る大広間に視線を遣った。

腰に手をあててにやにや笑っている晴明が視界に入った途端、緊張してしまった主さまは身構えて言葉を詰まらせる。


「…い、今のは別にお前を卑下したわけじゃ…」


「ほう、そうなのか。てっきり私を不能扱いしていたのかと思って倍返ししてやろうかと思っていたのだが」


「…!」


「父様っ」


喜ぶ息吹とは対称的な主さまの態度に、晴明のにやつきは深くなるばかり。

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