主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-②
「確証はないが…とある方法を見出した」


縁側に腰を下ろした途端そう切り出した晴明に、全員の視線が集中した。

待ちに待っていた報告なのでそうなるのも仕方なかったのだが、晴明はその状況を楽しむようにゆっくりとした所作で湯呑を口に運んで吐息をつく。


「…で、方法とは?」


「酒呑童子と椿姫をここへ」

「ま、待ってて、すぐ呼んできますっ」


慌てた息吹が瞳を輝かせて客間の方へ駆けて行くと、銀は若葉を肩車してやりながら尻尾をゆらゆら揺らして目を丸くした。


「椿姫の血臭が落ちる方法なのか?」


「うまくいけばそうなるが、確証はない。私とて万能ではないからねえ」


「……」


ちらりと横目で晴明に睨まれた主さまが密かに冷や汗をかいていると、息吹が椿姫の手をしっかり握って戻って来た。

後に続いて入って来た酒呑童子は不安と期待が入り混じった複雑そうな表情だったが、敵対関係にあった主さまと目が合うとすぐさま無表情を装ってぞんざいな態度で晴明を見下ろす。


「方法とは?」


「まず座りなさい」


…晴明の方がもちろん年下だったのだが…

不思議と主さまのように借りてきた猫のようになって腰を下ろした酒呑童子に椿姫と息吹が笑いを噛み殺していると、ようやく晴明が切りだした。


「“憑き祓いの泉”と呼ばれている泉が存在する」


「…そこに入れば、血臭が落ちるのか?どこにある?今からすぐに行く」


「そう急くな。書物によれば、その泉に浸かれば人の体内に巣食っている病魔など、あらゆるものを祓うと書かれてあった。だが場所は詳細に書かれておらず、北の方にあるとしか書かれていない」


「椿姫は…何かに憑かれている、と…?」


「わからぬ。椿姫の身体を詳細に検分したが、妖に憑かれている様子ではなかった。もとからの体質なのであれば…恐らく効果はないだろう」


一筋の光が酒呑童子を椿姫の顔を照らして輝かせた。

主さまの隣に座っていた息吹もまた主さまの袖をぎゅっと握って興奮を隠しきれない様子で、主さまの口元もつい緩む。


「総出で探す。百鬼を招集しろ」


主さまの一声で、百鬼の大群があっという間に集結した。
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