主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-②
乳を与えて寝かしつけると、いつの間にか一緒に寝てしまっている――

そんな日常を毎日繰り返し、そして酒呑童子と椿姫に進展があるかもしれないとわかった翌朝――


「…ん…あれ…?朔ちゃん…は…?」


腕に抱いていたはずの朔の姿はなく、あわてた息吹は髪がぼさぼさのまま夫婦共同の部屋を駆け出して大広間へ通じる襖を思いきり開けた。


漆の机には、今まさに淹れ立ての緑茶が息吹専用の湯呑の中で湯気を立てている。

何が起きたのかときょとんとしたままの息吹は、よろよろと机に近付いて立ち上る湯気に顔を近付けた。


「お茶…?誰が……朔…朔ちゃんは…!」


「……息吹、ここだ」


「え……主さま…?」


縁側から聞こえた声にゆっくり振り向くと、泉の捜索から戻って来ていた主さまが、産着に朔を包んで腕に抱いていた。

心の底からほっとしつつ、朔を取り上げられたことにも気付かず眠っていたことを反省した息吹は湯呑を手にして主さまの隣に腰を下ろした。


「主さまお帰りなさい。気付かなくてごめんなさい」


「そろそろ起きると思って茶を用意しておいた。…俺が」


「主さまが?どうして私が起きて来る時間知ってるの?」


「お前のことならなんでもわかる」


息吹のきょとんとした眼差しが主さまに注がれると、恥ずかしいことを口走ってしまったことに気付いた主さまはぷいっと顔を背けて庭に目を遣った。

普段は甘い言葉などなかなか言わない男のため、息吹は満面の笑みを浮かべて茶を口に運ぶと、吐息をついた。


「ありがとう、主さま」


「……初日は空振りだった。時間がかかるかもしれない」


「無理しないで。焦るかもしれないけど、主さまたちが倒れてしまったら元も子もないんだから」


「お前こそあいつらに気を揉み過ぎるな。…第一うちに住まわせる予定などなかったのに、お前が頼み込んでくるから…」


ぶつぶつと不満を口にしつつ、ちらっと息吹を横目で盗み見た主さまは、息吹がまたへらっと笑っているのを見ると、扇子で軽く息吹の頭を叩いて眠っている朔を息吹に抱かせた。


「俺は寝る。朔の相手をしてやれ」


「はい。ゆっくり休んでね」


そして、浅い眠りについた。
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