主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-②
息吹とふたりきりという好機は滅多にない。
幽玄町の屋敷には常に百鬼たちが常駐しているため、息吹は常に誰かに守られているし、安全ではあるが・・・
「主様、家具とか全部揃ってるんだね。用意してくれたの?」
「…椿姫は人だ。これしき当然のことだろう
息吹がちょろちょろ動いて部屋を見て回っている。
主様は自分の目が届くように少し離れて後をついていきながら、何度も手を伸ばしては引っ込めて、を繰り返していた。
…どうしても、伝えなければいけないことがあったからだ。
「息吹…ちょっとこっちに来い」
「え?どうしたの?」
ーー改めて大きな瞳で見つめられると、言葉に詰まる。
だがこんな好機は滅多に訪れぬこと。
「そこに座れ」
囲炉裏の前に息吹を座らせた主様は、自らも傍に座ると、一度大きく深呼吸をした。
息吹を拾い、育てて、一度離れて、そして再会するまでのことーー
「俺は…俺の…妻になったことを後悔していないか?」
「…?主さま……?」
何を言いだすのか、という表情でぽかんとしている息吹。
だが主さまは意を決して続けた。
「晴明の元に居れば…人の男の元に嫁いで幸せに暮らす選択肢もあっただろう。俺は…妖だ」
「主さま…」
「結果様々な問題でお前を困らせて、苦しめた。俺は…お前が後悔しているんじゃないかと思って…それで…」
歯を食いしばるように苦しい表情で主様が懇々と語る。
それを息吹は言葉も挟まず、正座をしてじっと聞いている。
「それで…いつか…いつかお前の口から“後悔している”と言われるのが……怖いんだ」
ーー妖の主が“怖い”と口にした。
常に威厳と自信に溢れ、恐れなど感じたことのないように見える男が、冷静さを欠いて矢継ぎ早に話す。
「俺の唯一の弱みは、お前だ。今の俺は…これからもずっと、お前の居ない今後は考えられない。お前が離れていったり死んでしまえば、俺は…生きていけない」
ーー息吹の胸にじわじわと熱い塊がせり上がってきた。
視界が歪み、唇は震えて、鼻の奥が痛くなった。
なかなかこういった本音を見せない主さまが、一生懸命想いを伝えてくれようとしているのだ。
こんなに強くて綺麗な男がーー
「主さ……ううん…十六夜さん 」
主さまの真実の名を呼び、膝の上で握られた固い拳を優しく握りしめた。
幽玄町の屋敷には常に百鬼たちが常駐しているため、息吹は常に誰かに守られているし、安全ではあるが・・・
「主様、家具とか全部揃ってるんだね。用意してくれたの?」
「…椿姫は人だ。これしき当然のことだろう
息吹がちょろちょろ動いて部屋を見て回っている。
主様は自分の目が届くように少し離れて後をついていきながら、何度も手を伸ばしては引っ込めて、を繰り返していた。
…どうしても、伝えなければいけないことがあったからだ。
「息吹…ちょっとこっちに来い」
「え?どうしたの?」
ーー改めて大きな瞳で見つめられると、言葉に詰まる。
だがこんな好機は滅多に訪れぬこと。
「そこに座れ」
囲炉裏の前に息吹を座らせた主様は、自らも傍に座ると、一度大きく深呼吸をした。
息吹を拾い、育てて、一度離れて、そして再会するまでのことーー
「俺は…俺の…妻になったことを後悔していないか?」
「…?主さま……?」
何を言いだすのか、という表情でぽかんとしている息吹。
だが主さまは意を決して続けた。
「晴明の元に居れば…人の男の元に嫁いで幸せに暮らす選択肢もあっただろう。俺は…妖だ」
「主さま…」
「結果様々な問題でお前を困らせて、苦しめた。俺は…お前が後悔しているんじゃないかと思って…それで…」
歯を食いしばるように苦しい表情で主様が懇々と語る。
それを息吹は言葉も挟まず、正座をしてじっと聞いている。
「それで…いつか…いつかお前の口から“後悔している”と言われるのが……怖いんだ」
ーー妖の主が“怖い”と口にした。
常に威厳と自信に溢れ、恐れなど感じたことのないように見える男が、冷静さを欠いて矢継ぎ早に話す。
「俺の唯一の弱みは、お前だ。今の俺は…これからもずっと、お前の居ない今後は考えられない。お前が離れていったり死んでしまえば、俺は…生きていけない」
ーー息吹の胸にじわじわと熱い塊がせり上がってきた。
視界が歪み、唇は震えて、鼻の奥が痛くなった。
なかなかこういった本音を見せない主さまが、一生懸命想いを伝えてくれようとしているのだ。
こんなに強くて綺麗な男がーー
「主さ……ううん…十六夜さん 」
主さまの真実の名を呼び、膝の上で握られた固い拳を優しく握りしめた。