主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-②
息吹は人なので、三食欠かさずに食べなくてはいけない。

主さまたちは食べなくてもいいのだが、毎回付き合ってくれるので、寂しくはない。

自ずと台所に立つ機会が多い息吹は、明日酒呑童子たちがあの家へ発つと聞いて、精一杯心を込めて料理を作っていた。


「作りすぎちゃうかな…でもお別れなんだしいか」


「息吹」


「あ、雪ちゃんちょっと待ってね、そこにあるお料理運んでくれる?」


背後にいる雪男にそう話しかけた時ーー急に、ふいに背中から抱きしめられた。


こんな光景を主さまに見られては、自分はともかく雪男がきっと大変な目に遭うと思って焦った息吹は、お腹のあたりにある雪男の甲を思い切りつねった。


「雪ちゃん!主さまに見られたら大変なんだから早く離れて…」


「…急に居なくなって心配した。主さまが一緒だとは思ってたけどさ。…離れてくなよな」


「ごめんね、突然のことだったからみんなに言うことができなくて…」


くるっと身体を回転させられて真向かいになると、雪男の端麗な美貌がすぐ間近にあった。

一度雪に戻り、今の姿にまた戻ってからはーー少し大人びて男らしくなったように思える。

どきっとしたことは伏せておいて、笑顔を浮かべた息吹は、着物の裾で手を隠すと、雪男の白い頬を軽く叩いた。


「やけどしちゃうから離れて」


「主さまのどこがいいんだよ。一緒にいて面白いか?」


「主さまには主さまのいいところがあるんだから。雪ちゃんにもあるんだよ?早く雪ちゃんのこと心から理解してくれて、触ってもやけどしない人と出会えたらいいね」


にこにこ。

終始にこにこ顔の息吹に毒気を抜かれた雪は、肩を竦めてため息をついた。


「そんな奴現れるのかな。俺は生涯独身なのかも。…お前が主さまと離縁しない限り」


「ふふっ、離縁は絶対しません。ほら雪ちゃん、これ運んでね。あったかいのは私が運ぶから」



息吹もまっすぐながら、雪男もまっすぐ。

きっと生涯独身だ、と頑なにそう思いつつも、いつかーーいつか出会うことになるのは、そう遠くない日。


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