主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-②
その日の夜の百鬼夜行は、食事が終わるまで行われなかった。

主さまにとっては、そうそう何度も銀に代行をお願いするのは本意ではないし、また百鬼にも示しがつかない。

また椿姫と隣同士に座って楽しそうに食事をしている息吹を見るのも、楽しかった。


「とってもいいところがだったから、きっと位に入ると思うの」


「息吹さん…私のたちのためにありがとう。なんとお礼を言っていいのか…」


「ううん、私じゃなくて、主さまが用意してくれたんだから、主さまにお礼を言ってね」


そんな主さまは、刺身を口に運びながら相変わらずの無表情。

…鬼は皆酒豪なのか、酒呑童子も主さまも黙々と酒を口に運びながら、酔った様子は微塵も見せなかった。

その場には山姫や雪男も居たが、こうして集まるのは、皆主さまたちと理由は同じで、息吹の笑顔を見たさ。


「…本当に、ありがとうございました」


「……達者に暮らせ」


椿姫は主さまを誘惑してその身を食らわせた罪悪感があれば、主さまもその誘惑に乗って屋敷に戻らず息吹を悲しませた罪悪感がある。

気まずい沈黙が流れ、息吹はあまり口にしない酒を一気に煽ると主さまに隣に移動して無理やり腕を絡ませて奮起した。


「もう二度と目を離さないから大丈夫っ。浮気なんて絶対させないし、許さないんだから」


「あ、あれは浮気じゃな……ふん」


ーーもうこの時点で息吹の尻に敷かれているのは間違い無く、注目していた酒呑童子と椿姫が同時に吹き出す。

「まあ、次また何の断りもなく居なくなったら離縁は免れないだろうねえ」


山姫がさらに追い討ちをかけて変な汗が止まらなくなった主さまは、縁側に移動して庭で戯れている百鬼たちに目を遣る。

すると酒呑童子が席を移動して主さまに隣に座った。

元々は、敵同士。

交わす言葉もなければ、話したいこともない。

隣に座った気配を感じたが、敢えて目を遣らなかった主さまに対して、酒呑童子がぽつりと呟いた。


「…俺は二度と、椿姫を食わない」


「再びその身を食らえば、椿姫は再生することなく死ぬ。よく覚えておけ」


…俺たちは、弱い生き物なのだから、大切なものを失えば未来永劫苦しむことになるーー


囁くように言った主さまの言葉は、酒呑童子の耳に届き、じっと黙ったまま、小さく頷いた。
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