主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-②
翌朝、息吹はしょげていた。

せっかく椿姫と仲良くなれたのだから、もう少し一緒の時間を過ごしたかったのだが、それは晴明や主さまに厳重に止められたのだ。


「ふたりの短い時間を消費してはいけない」


…そう言われてしまえばぐうの音も出ないし、またわがままも通せない。

身支度をして庭に出た椿姫の手を握ったままずっと離さない息吹に目を細めた椿姫は、主さまに深々と頭を下げた。


「もうお会いすることはないと思いますが、ありがとうございました」


「…達者に暮らせ」


最初は陸路であの家まで行くと言ったのだが、それは時間がかかるし、歩き慣れていない椿姫には酷なこと。


そこで、晴明の出番となった。


「我が愛娘のたっての願いで、八咫烏を貸してあげよう。揺れも少なく、快適に早く飛べるから安心しなさい」


してやったりのにたり顔を見せてほくそ笑んでいる晴明を睨みつけた主さまは、息吹の着物の袖を引っ張って椿姫から離れさせた。


「息吹さん…名残惜しいけれど、元気で」


「はい…。椿さん、もし赤ちゃんができたら絶対お披露目しに来てください。約束して!」


「息吹さん…」


椿姫が肯定の微笑を見せると、息吹は主さまに肩を抱かれてふたりから離れた。


「酒呑童子さん、必ず幸せにしてくださいね」


「ああ」


八咫烏の背に椿姫を乗せた酒呑童子は、腰を支えるようにして後ろに乗ると、主さまに目礼した。

また主さまも小さく頷くと、八咫烏は一声して飛び立ってゆく。


息吹はその姿が見えるまで、ずっと手を振っていた。

ずっと、ずっと。
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