主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-②
「運命とか…主さまがそんな言葉使う日が来るなんてな」


「……」


雪男にまさかの盗み聞きをされていた主さまは、その時用事で出かけた息吹の代わりに庭の花々に水遣りをしていた。

未だに諦めの悪い雪男に何かがつんと言ってやりたいのだが、息吹はすでに自分を選んだわけで、どんと構えているべきだとも思っている。

少し唇を尖らせて不服そうにしている雪男は妖の中でも類まれなる力と美貌の持ち主で、引く手数多の中未練たらたらに息吹の側に居られるのは主さまとしては本意ではない。


「…お前は子守だったろうが」


「それ言うなら主さまは父代わりだったじゃないか」


…互いにぐうの音も出ないことを言ってしまい、沈黙。

呆れるほどに端正な横顔をお互い盗み見しつつ、雪男が切り出す。


「俺、ここから出て行こうかな」


「それは俺が困るからやめろ」


「え」


「お前が居ないと安心して百鬼夜行に行けなくなる。だからやめろ」


ーーまさか引き止められるとは思っていなかった雪男がぽかんとしていると、主さまとどめの一撃が。


「お前が必要だと言っている。…氷雨」


真の名を口にされた瞬間、波のようなさざめきが大波を打って押し寄せてきた感覚に襲われた。


主さまに憧れ、その意思に共感して側に居られる喜び。

この時息吹の姿は心になく、少し微笑んでいるかのような主さまに一心に向かう。

どんなに悔しくても、憎く思う時があっても、主さまには逆らえず、また心を縛られてさらに強く憧れてしまうのが、妖としての性。


「そ、そんなこと言われてもさ…」


「…不満は互いにあるだろうが、俺はお前の主。逆らうことは許さん」


そしてぷいっと背中を向けてまた水遣りを再開した主さまの背中を、雪男の蚊の鳴くような声が叩いた。


「俺様かよ」


雪のような白い肌を桜色に紅潮させた雪男は、やはりこの男には敵わないと軽い絶望を味わいつつも心地良くたゆたう心に身を任せて番傘をさし、隣に立って主さまの手から手桶を奪い取った。

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