主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-②
鬼八が昇華し、酒呑童子も去った今、主さまに脅威はない。

男の長子に恵まれ、また赤子ながらも感じるのは、自分を凌駕するかもしれない力を持っているのを感じている主さまは、明るい未来に頬を緩めた。

ーーいつの頃からか始まった百鬼夜行。

人と妖の間に立ち、またそれぞれが領域を侵さぬことーーそれを鉄則として、互いの存在を認め合う。

その任から解き放たれる日が近いことと、また…


百鬼夜行をいつかしなくてもいい日が来ることを密かに願っていた。


「おやおや、難しい顔をしている」


「…元々こんな顔だ」


「そんな堅物のような顔をしていても、恐ろしく手が早く、私の愛娘を攫っていったのは…はて、どこの鬼だったかな」


嫌味を言わせれば右に出る者がいない男ーー晴明は、烏帽子を脇に置いて扇子で肩を叩いた。


「それについては言い訳はしない。お前こそ山姫とはどうなっている?本当に子は要らんのか」


「今の所は、と言っておこう。私は山姫を妻に迎えた今でも心に穴が空いているような気になる。これが埋まるまでは、子は作らぬ」


かつて晴明に息吹を連れ去られてから今日に至るまで…息吹がどんな生活を送っていたか、主さまは具体的に聞いたことがなかった。

聞けば手放したことをまた深く後悔するだろうし、聞いても詮無いこと。

ただ息吹がまっすぐ育ったのは、晴明の努力の賜物だというのはよくわかっていた。


「…朔にしろ銀のところの若葉にしろ、うちは小さいのが多い」


「結構なことではないか。そなたの表情は毎回豊かになり、仏頂面が減って良い」


「手が足りない。お前も子育てを手伝え」


「ほう、私の手を?私は凄まじく躾にうるさい。朔も若葉も泣き出してしまうかもしれないねえ」


嘘つけ、と主さまが内心毒付く。

血は繋がっていないが、朔は孫。

朔を腕に抱いている時の晴明と自分の表情は大差ない。


「お前は本当に性格が悪いな。昔から」


「父代わりが育て方を間違えたんだろうねえ」


「…つまり俺のことか?」


「どれ、朔と息吹はどこかな?父さまが美味な饅頭を持ってきたよ」


晴明がそれには返事をせず台所の方に声をかけると、明るい声が返事をした。

そしてにたり顔をして口元を扇子で隠してにやにやしている晴明に主さまが溜め息を零す。


「お前の育て方を間違えた」
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