主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-②
「私の与り知らぬ場所にて何やら不思議な気配がするな」


息吹に隠れ家を教えてから数日後、茶を啜りながら何気なくそう言った晴明の言葉に、思わずどきっとしてしまった主さま。

何食わぬ顔をして同じく茶を啜ったものの…

晴明から逃れられないことはよく知っているので、むっつりとしながら頷いた。


言い訳をしない主さまににやりと笑みを送った晴明は、袖を払って両指を複雑に組むと印を結ぶ。


「私に隠し事とは、小賢しいことだ」


「…小僧が大きな口を叩くな」


「おや?小舅の私によく大きな口を叩く。なに、もう少し結界の穴を塞いでやろうと思っただけ故」


珍しく協力的な態度の晴明に逆にぞっとした主さまは、座ったまま後ずさりしながら晴明から距離を取った。


「何が目的だ」


「あの子の安らげる場所ができるのならば、文句はない。人と結ぶ縁もまた必要だからねえ。町内の者たちと触れ合うことも必要なのだよ」


それは主さまの目的とは少し違ったのだが、いつも先を行く考えを持つ晴明には反論はしない。


「父さま、朔を抱っこしてあげて下さい」


「おお、よしよし。また力が強くなったな。それに成長が速い。そなたはよき男になりそうだな、喋り出すのも時間の問題だろう」


「馬鹿を言うな。まだ赤子だぞ」


またにやりと笑った晴明に、主さまが再びぞっとする。

晴明の言うことは大抵当たる。

また息吹もそれを疑っていないのか、小さな指で空を掻いている朔に笑顔を向けた。


「朔ちゃんがもう喋るの?わあ、はやく一緒にお喋りしたいね」


「お祖父様が高い高いをしてやろう」


見事に孫をも溺愛している晴明に辟易した主さまは、同じく呆れ顔の山姫にため息を向けた。


「お前、よくこんな男を選んだものだな」


「あたしはすでに後悔してますよ」


後悔というか、諦めというかーー

なんだか共感してしまったふたりが同時に息を吐く。


高い高いをしてもらっていた朔がこの時、口を動かして何か呟いた。


それは彼らの笑い声によってかき消され、空に消えた。
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