主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-②
「さて…何からしようかな。綺麗すぎるからお掃除しなくていいし…」


別宅を与えてもらった息吹は、朔を狭い縁側に寝かせて庭を見回していた。


鳥の声も聞こえるし、人々が行き交う声も聞こえるのだが、いかんせんここは彼らから見えないらしい。

朔の成長が速いのもなんとなく感じていたのだが、真っ黒な瞳でこちらを見据えている我が子に無限の愛しさを覚えた。


「朔ちゃんをくれた主さまが安らげる場所にならないとね」


自分が安らげるようにと与えてくれた別宅だが、主さまにもゆっくりしてもらいたい、というのが息吹の希望。

結界を施してくれたのも何らかの術を使っているのだろうし、そんなの必要ないと思うのだが、口にはしない。

だってそれは、主さまの厚意なのだから。


「主さまって、何が好きなんだろ。なんでも食べてくれるけど、好物とか好きな花とかないのかな」


朔がまだ喋れないので完全に独り言なのだが、息吹は気にしない。


「長いこと一緒にいるけど、案外知らないことが沢山あるのかも。今日聞いてみよっかな」


することがなくて縁側に腰掛けた息吹は、晴天の空に目を向けた。


「主さまが本当にゆっくりできる時って、百鬼夜行をしなくてもよくなる時なのかな。まだまだ先のことかな」



『安心して下さいお母様。俺がすぐに代替わりして楽にさせてあげますから』


「……え…?」



ーーどこからか聞こえた、やけにはっきりとした空耳。

朔に目を遣ると、大きな欠伸をしてうねうねしていた。


「まさか…ね…?」


主さまによく似た低い声。

会話の内容的にも間違いなく朔が言ったのだろうが、そんなことはあるはずがないという先入観が先に立ち、真っ黒で艶やかな髪を優しく撫でた。


「そうあってほしいっていう私の願望が聞こえちゃった。朔ちゃんなら主さまみたいな強くて素敵な人になれるだろうね」


横になって子守唄を歌っているうちに、息吹もうとうとして寝入ってしまった。



『すぐですよ、お母様』



今はまだ赤子の朔は、また大きな欠伸をして息吹の人差し指を握ると、同じ寝顔で惰眠を耽った。





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