主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-②
元の姿に戻った雪男は百鬼たちからの大歓迎を受けて、照れながら皆の輪に加わっていた。

だが…息吹としては、これから明け方にかけて主さまとは離れ離れ。

とても寂しいけれど、それを口に出せば主さまに気を遣わせてしまうし、百鬼夜行の主である主さまの妻である限り、男の子が生まれてその子が後継者とならなければ、こういった離れ離れの生活はずっと続くのだ。


だから、今日も堪えなければ。


「主さま行ってらっしゃい。怪我しないでね。あと私に気を遣って早く帰って来なくていいから。私ちゃんと寝るから。ね?」


「…ああ。ちゃんと部屋で大人しくしていろ」


「はい。明日は朝から山菜を採りに行って山菜ごはん作るから一緒に食べようね」


百鬼たちの騒がしい声に息吹の声はかき消されそうだったが、主さまはしっかり息吹の言葉を捉えて頭を撫でると、身を翻して百鬼たちと共に空を駆け上がっていった。

それを見送った息吹の後ろ姿は儚く、晴明は庭に降りて息吹の肩を抱くと、優しい声色で慰める。


「寂しいのかい?そなたたちはまだ新婚なのだから、ゆるりと過ごしなさい。焦る必要はないのだから」


「…はい。でも父様…私、夜が嫌いになっちゃった…。夫婦になる前はそんなに感じなかったのに、最近すごく寂しいの」


本音を吐露した息吹は、山姫と晴明の間に挟まって代わる代わる頭を撫でてもらうと、食卓を挟んで目の前に座っていた雪男に氷をがりがり噛みながら諭された。


「そんなのわかりきってて夫婦になったんだろ?じゃあくよくよすんなよ。今めっちゃ不細工な顔してるぞ」


「雪ちゃんひどい。でも…うん…わかりきってたことだもんね。私頑張る。笑顔で主さまを送り出して、お迎えしなきゃ」


「そうその意気だよ。主さまは明るいあんたが好きなんだ。明日は山菜ごはん作ってあげるんだろ?今夜は早く寝て明日に備えな」


「うん!父様母様雪ちゃん、慰めてくれてありがとう!お片づけしてからすぐ寝るね。雪ちゃん明日は裏山に山菜採りに行くから付き合ってね」


調子を取り戻した息吹は煮魚をもりもり食べて後片付けをしてから、玄関先で晴明を見送った。


「父様も山菜ごはん食べに来てください。あと道長様のお話聞けなくて残念だったけど、また教えてね」


息吹に手を振って無人の牛車に乗り込んだ晴明は、ごろんと横になりながらはにかんだ。


「さて、十六夜も息吹も首のあたりを手拭いで隠していたが、何があったのかな?ふふふ」


含み笑い、炸裂。
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