主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-②
主さまと約束した通り大人しく夫婦共同の部屋で明け方まで眠った息吹は、庭で草を踏む音にすぐ気付いて襖を開けて驚かせた。


「主さまお帰りなさい」


「ああ。お前…ちゃんと寝たか?」


「ちゃんと寝たよ、ほら見てこの顔。枕の痕がついちゃった」


主さまを部屋に迎え入れた後、昔私室として使っていた続き部屋へ行って浴衣から着物へ着替えた。

主さまも着替えをしているようだったので少し待って戻ると、眠たそうに欠伸をしていたので、籐で編んだ籠を手に草履を履く。


「こんな明け方から行くのか?」


「うん、朝採った山菜はすっごく美味しいらしいし仕込もあるからもう行かなくちゃ。主さま、雪ちゃんを借りるね」


庭にはすでに雪男が現れていて、主さまと同じように欠伸をしている。

元気なのは息吹だけで、そんな雪男に気付いた息吹はつんと顔を逸らしていじけて見せた。


「そんなに眠たいなら残ってていいよ、私ひとりで行くから」


「!ちょ、待てって、ちょっと欠伸しただけじゃん!行きます!一緒に行かせて下さい!」


裏山は山菜が豊富で、時々百鬼たちが手土産にと採ってきてくれることがあった。

息吹はまだ裏山は未探検だったので、いつかは頂上まで登り切ってやろうと思っていたのでちょうどいい機会だ。


「鬱蒼としてるね。獣道はあるけど…今度みんなでお掃除しなきゃ」


「息吹、俺とはぐれるなよ。ここは主さまの領域だから悪さする奴は居ないけど、一応警戒しとけよな」


「うん。あっ、たらのめ発見!おひたしにして食べよ。よもぎもあった!これはお餅に入れて…」


籠の中はみるみる山菜だらけになり、雪男も手伝ったので小1時間ほどで山盛りになった。

だが息吹の脚は止まらず、緩やかな丘を少しずつ上がって頂上を目指している。


「息吹ー、もう戻ろうぜ」


「ここまで来たんだから頂上まで行こうよ。あともうちょっと!」


汗だくになりながら頂上を目指していると――途中で小さな小さな祠のようなものを見つけた。

その存在を知らなかった息吹は祠の前で立ちどまり、祀られている両手で抱えるほどの丸い石を覗き込む。


「ご神体かな。何もお供え物がないけど…後でお神酒とご飯を持って来ます。お掃除もします。待っていて下さいね」


ぺこりと頭を下げてまた上り始めた。

その時…丸い石が少しだけ、光った。
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