主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-②
惰眠を貪っていた主さまは、わいわい騒がしい声が近付いてくると、むくりと起き上がった。


息吹が一緒に食事をすることを楽しみにしている。

だからどんなに眠たくても起きて付き合ってやらないと、寝てばかりでは息吹と接する時間がものすごく少なくなってしまうのだ。


「帰って来たか。山姫、加勢をしてやれ」


「あいよ。おやまあ、沢山採ってきたねえ」


山姫が赤茶の長い髪をひとつに束ねて腕まくりをした時、裏山から戻って来た息吹はどろどろの草履を脱ぎ捨てて縁側に座っていた主さまの隣に座った。


「脚を洗ってこないと家には上げないぞ」


「主さま洗って」


「…はっ?な、何故俺が…」


「主さまと井戸に行って来ます。母様、山菜を洗っておいてくれる?すぐ仕込するから一緒に作ろ」


「はいはい。あんたはまあまだまだ子供だねえ。指の股の間までしっかり洗うんだよ」


やわらかな草を踏みながらさっさと井戸に向かうと、主さまも仕方ないと言った態で腰を上げて泥まみれの息吹の足元に目を遣った。


「お前そんなに汚れt絵何をしたんだ?」


「頂上まで行ったの。そしたら祠を見つけたよ。全然お手入れされてなくて、お供え物も無かったの。大きくて丸い石が祀られてたけど何か知ってる?」


井戸水を手桶で汲み上げながら息吹が尋ねると、主さまはしばらく考え込んでようやく祠のことを思い出した。


「そういえばそんなものがあったな。うちが代々祀っているやつだ。俺の代になってからは行っていなかったな。あれは地主神(じぬしのかみ)だ。土地を守護する神であり、妖の俺たちをも受け入れて守ってくれている。…もう何百年も行っていないが」


「そんなに行ってないの!?た、大変!主さまお掃除に行かなきゃ!山菜ごはん食べたら一緒に祠に行ってね!お掃除道具と白いお米とお神酒と…ちょっと!私の話聞いてるの!?」


息吹に怒られて肩を竦めた主さまは、息吹を庭にある大きな岩の上に座らせて細い脚を手桶に突っ込ませた。

清水て優しく洗ってやると泥はすぐに取れて、真っ白な脚に変わる。

顔を上げると息吹は嬉しそうに微笑んでいて、またすぐに俯いた主さまは、咳払いをして手拭いを息吹の肩に軽く投げつけた。


「ちゃっちゃとやるぞ。俺は眠たいんだからな」


なんのかんのと言いながら、息吹には逆らえない。
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