主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-②
主さまが百鬼夜行に出てしまうと暇になるので、そういう時は晴明が持って来てくれる本を読んで楽しんでいる。

縁側に簡易の床を敷いて寝かせた若葉を団扇で扇いでやりながら読書をしていた息吹の隣に、切った西瓜が乗った皿が置かれた。


「はいよ、今日もお疲れさん。祠は綺麗になったのかい?」


「母様、ありがとう。うん、綺麗になったと思うよ。蝋燭立てがあったから明日は蝋燭を持って行って祠を明るくしてあげるの。あと父様にも祝詞をあげてもらうから明日もやることが沢山あって大忙しだよ」


「あんたは張り切り過ぎなんだよ。肩肘張ってるといつかくたくたになっちまって老けるかもねえ」


「えっ!?それは駄目!ああそういえば私最近あんまり鏡を見てないかも…。明日は久々にお化粧してお洒落しようかな」


頬張った西瓜がとても甘くてにこにこしていると、真っ暗な夜空を切り裂く白い光のようなものが見えた。

何かと思って見上げたままでいると、ぱさぱさと儚い音を立てて庭に舞い込んだ後、ぽとりと落ちた。


「あ、父様の式神だ。なんだろ、お手紙かな」


鳥の形をした式神を広げてみた息吹は、晴明ではない字体が見えて思いきり首を傾けた。


「“息吹姫へ”って書いてあるけど…誰なのかな」


「どれどれ、あたしにも見せてごらん」


縁側に戻って座った息吹は、山姫にも見えるように全部広げてみると、口に出して読み始めた。



「息吹姫、お身体の具合はいかがでしょうか。あなたと1日お会いできないだけで胸が押し潰されてしまいそうです。私は武士なので文の書き方はよくわかりませぬが、明日こそはあなたにお会いしたい。いつまでもお待ちしております。義経。……え…っ、よ、義経さんからだこれ!」


「おやおや、熱烈な恋文だねえ。あんたが人妻だってこと知ってるんだよね?それとお身体の具合だって?あんたのその首の痣と関係あるのかい?」



先程風呂から上がった時に新しくつけていた橙色のお洒落な手拭いを外したままだったことにようやく気が付いた息吹は、反射的に手でぱっと痣のある部分を隠すと、にやにやしている山姫ににじり寄った。


「み…見た?」


「ばっちり見たさ。そんなの雪男が見ると発狂して溶けちまうから隠しておきな。しっかし…義経ねえ。どんな男か明日はあたしも偵察に行ってやろうかねえ」


弾んだ声を上げた山姫とまた西瓜を齧りながら、実ははじめてもらった恋文に少しだけどきどき。
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