主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-②
主さまが帰って来ない間から裏山を登り始めた息吹は、ついて来ようとした雪男の申し出をやんわり断ってひとりで登っていた。

なんとなくあの地主神とはひとりで会いに行きたくて、祠に着くとすぐに蝋燭に炎を燈して頭を下げる。


「おはようございます。お供えと手拭いを替えに来ました。ふふ、毎日一緒にお洒落しましょうね」


昨晩山姫から注意を受けたので、今日は朝から薄化粧をしてみた。

地主神に着せるようにして巻き付けていた手拭いは桃色の可愛らしいものに替えて、お供えしていた白米やお神酒も替えると、なんとなく祠の雰囲気が変わった気がした。


「ここの風と空気気持ちいいなあ…。地主神様、今日は裏山をみんなで綺麗にします。ここに来るまで獣道しかないから、もっと綺麗にして来やすいようにしますね」


…もちろん返事はないが…

地主神の丸くて大きな石を見ていると、気分が安らぐ。

もっとここに居たかったが、今日もやることが沢山あるので、もう1度深々と頭を下げた息吹は、脚を滑らせないように慎重に山を下っていく。


「地主神様怒ってないかなあ…。ずっとお参りしてなかったなんて主さまの馬鹿」


息吹も祟りを信じている。

易や星読みなどを行う晴明は、時に何者かに呪われて助けを求めに来た者の術返しも行う。


人が人を祟るのが1番怖い――

神様は精神誠意心を込めてお参りをすれば、祟ることはない。

そう晴明に教えられていた息吹は、山を下って屋敷に着くと、帰って来ていた主さまが縁側で待ち受けていたのですぐに駆け寄った。


「主さまお帰りなさい。あのね、地主神様のところに行ってたの。今日は蝋燭に炎を燈してきたよ」


「…何故俺を待たなかったんだ」


「え?ひとりで行けるもん。一緒に行きたかった?」


意地悪な質問をぶつけてみると、じろっと睨まれたが全く怖くない。

息吹が隣に腰かけると、主さまは山姫に用意させた酒入りの徳利と御猪口が乗った皿を息吹の膝の上に乗せた。


「晩酌に付き合え。その後俺が寝るまで付き合え」


「主さまの我が儘。今日は裏山を綺麗にするから、起きたら手伝ってね。はいどうぞ」


ずいっと差し出してきた御猪口になみなみお酒を注いだ息吹は、主さまが半分飲んで返してきた御猪口の残りを豪快に一気に飲み干してへらっと笑った。


「おいしーい。主さまもっと」


…意外に酒豪だった。
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