主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-②
…恋文など生まれて今まで書いたことがない。

貰うことはあったが、まともに読んだこともなく捨てるばかりだったので、意味を見出したこともない。


「おい山姫。俺の話を聞いていけ」


「今忙しいから後にして下さいよ。動ける百鬼たちで裏山を大掃除中なんです。主さまも暇してるなら手伝って下さいよ」


結局よく眠れずに悶々としていた主さまは、がやがやと騒がしい裏山側へ行ってせっせと働いている息吹や雪男、百鬼たちを渋い表情で見つめた。

確かに裏山はずっと放置していたので荒れ放題だが…やたらと息吹が祠にこだわるし、何より雪男が息吹にくっついて離れないのが癪に障る。


「…晴明、お前は何をやっている?」


「私か?私は監督をしている。まあ監督などせずとも息吹の頼みならば彼らはよく働くからねえ」


晴明の言う通り、赤子の頃から息吹を知っていて可愛がっている百鬼たちは率先して裏山の草を刈り、木の枝を切って見通しをよくしたりでてきぱきと動いている。

そうしながら息吹にちょっかいを出して嬉しそうにしているし、それは微笑ましい光景のはずなのだが…心の狭い主さまにとっては、息吹を奪われたようで面白くない。


「……俺もやるぞ」


「え、主さまが!?今夜は槍でも振るかもなあ」


大きな一枚布で頭まで身体を覆い隠したがごぜという妖が大笑いすると、主さまは鼻を鳴らしてしゃがんで草を鎌で切っていた息吹の隣にぴったり寄り添っていた雪男の背中を蹴飛ばして転ばせた。


「何すんだよ!」


「番傘を差しながら掃除をしているのか?片手で何ができるんだ、引っ込んでいろ」


寝不足で瞳がぎらぎらしている主さまに逆らうとただでは済まされないことを知っている雪男は、渋々息吹の隣を譲って立ち上がり、くすくす笑っている晴明の隣に立った。


「なんであんなに心が狭いんだよ」


「それは皆感じていることだが口に出してはならぬ。とにかくそなたは元の姿に戻ったのだから、今後はまた十六夜ににらみを利かされるだろう。注意した方がいいかもしれないねえ」


のんびりとした口調だが、騙されてはならない。

童子の姿をしていた時は咎められなかったことも、今は瞳を尖らせて監視されるだろう。

だから、こっそりやるしかない。


「ま、注意するけどさ。あーあ、大きくなったらなったでめんどくさいな」


主さま、せっせと草刈り中。
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