主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-②
「ああ…暑い…暑い…」


日差しに弱い山姫はふらふらしながら幽玄橋の前にたどり着いた。

そこにはいつものように赤鬼と青鬼が巨大な棍棒を手に立っていたのだが、その奥に――軽装備をした男が幽玄橋の真ん中ほどに居た。

横顔は凛としていて涼しげで、鼻梁も高く、美男子と言える。


「あれが義経なのかい?」


「そうだ。あいつめ息吹にちょっかいを出して気を引こうとしているらしい。息吹は主さまと夫婦になったのによ」


「ふうん、じゃあちょっとあたしが牽制しておこうかねえ」


赤鬼と青鬼の間を擦り抜けて義経に近付いた山姫にすぐ気付いた義経は、普通の人が発さない妖気に気付くと腰に下げている太刀にすぐ手をかけた。

だが山姫はそれを意に介さず、腰を低くして構えを取った義経の前に立つと、妖艶な笑みを浮かべて冷や汗を流させた。


「あんたが源義経だね?」


「そ、それがどうした!俺に話しかけるな!」


「ふふふ、緊張しちゃって可愛いねえ。ちなみにあたしは息吹の母代り。今日も息吹はここに来れないことを伝えに来たんだ」


身体に力を溜めこむようにして強張らせている義経の眼前に頓着なく立った山姫がそう言うと、義経は太刀から手を離して身体を起こした。


「息吹姫は…まだお加減が悪いのか。それにそなたが母代りとは一体…」


「晴明はあんたにその辺の事情を話してないのかい?とにかく会えないし、息吹に深く関わるとあたしたちの主がよく思わなくて不機嫌になるから、ちょっかいを出すのはやめとくれ」


十分牽制をして背を向けると、義経は無意識に1歩前進して山姫を呼び止めた。


「もしや今日もお会いできうかと思い、文を書いた。これを…息吹姫にお渡ししてほしい」


「渡しておくけど返事は期待しないでおくれ。あんた、よくよく考えた方がいいよ。息吹は妖の頂点に立つ男に嫁いだんだ。あんた、寝る時も寝首をかかれないように気を付けた方がいいよ」


くすくす笑いながら赤鬼と青鬼の元に戻った山姫は、上品な香の匂いが漂う手紙を懐に入れて肩を竦める。

主さまはこの文の存在を嫌がるだろうが…息吹に内緒で処分するわけにはいかない。


山姫にとっても息吹が1番大切で、愛しい存在なのだから。
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