主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-②
肩半ばまである真っ黒な髪を顔の横でひとつに束ねた男――

その手には不気味な妖気を発する太刀を持ち、表情は限りなく無表情で、これもまた不気味なほどに顔が整った怜悧な印象を与える美貌…


この男が、百鬼夜行を束ねる男――主さまだ。


「私の屋敷で諍いはやめてもらおうか。天叢雲を抜けば私とて黙ってはいまいぞ」


「お前に用はない。俺はそこの源義経とかいう男に警告をしに来ただけ、と言った。口を挟むな」


――息吹が絡めば主さまは冷静ではいられない。

晴明はもちろんそれを知ってはいたが…晴明は常に主さまを試している。

主さまが息吹を幸せにしてやれているうちは口を挟むまいと決めているが、もし何か起これば問答無用で再び息吹を幽玄町から平安町へ連れ帰るつもりでいる。

…常に。


「義経殿、太刀を収められよ。この男は何の理由もなく人を斬ったりなどせぬよ」


「だがしかし…。この男が…息吹姫の…?」


「親しげに息吹の名を呼ぶな。お前の文、息吹は迷惑をしている。人妻に恋文などどんな神経をしているんだ。お前…いつ俺に殺されてもおかしくない状況だということを覚えておいた方がいい」


ぶらりと手を下げているが、全身からは殺気が放たれている。

義経は全身に冷や汗をかきながらもなんとか脚を動かして庭に下り立つと、主さまと正面から対峙して歯を食いしばった。


「息吹姫は人だぞ。どうせお前が息吹姫を騙して無理矢理妻にしたのだろう!?そうでなければ妖の妻などに…」


「…俺は無理強いなどしていない。息吹は望んで俺の妻になりたいと言って幽玄町へ来た。俺たちは幸せにやっている。お前が毎日幽玄橋で待ち伏せしていると息吹の気が晴れない」


「俺とて己の想いはお伝えしたい。息吹姫に直接お会いして直接お伝えせぬ限りはこれからも毎日幽玄橋へ行く。お前は関係ない、引っ込んでいろ」


あくまで息吹にこだわる義経の姿勢は主さまをかなりいらつかせて、すうっと瞳を細めさせた。

一気に空気が険悪なものとなった時、ようやく晴明がこの場にそぐわないのんびりとした声で仲裁に入る。


「まあまあその辺に。義経殿、息吹は私の愛娘であり、主さまは私の旧知の友人。2人が夫婦になって私も嬉しいが、そなたはいわば間男。私も穏やかな気分ではないのだよ」


3人が見つめ合う。

息吹を巡って――

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