主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-②
主さまは妖、晴明は半妖、そして…義経は人。

もちろん人が最も迫力が無く、案の定瞳を逸らしたのは義経だった。

それに主さまに睨みを利かされて脚はがくがく震えていたし、歯の根は噛み合わずにかちかち音を鳴らしている。

睨まれただけで死の恐怖を味わってしまった義経の身体が揺らぐと、晴明は主さまに扇子を投げつけて気を引いた。


「これ、人である義経に本気の殺気をぶつけるのは大人げないぞ。義経殿すまぬ、こやつは今すぐ幽玄町へと放り込んでこよう」


「う、ぅ…っ」


「十六夜、気を静めろ。義経殿の心の臓が止まってしまう」


人には聞こえない声でそう言った晴明をさらに睨みつけた主さまが背を向けると、晴明はすぐさま主さまの首根っこを掴まえて義経と主さまをぎょっとさせた。


「晴明!何をする!」


「連れ帰るのだ。息吹に洗いざらい話して仕置きをしてもらえ。きっと息吹に怒られるぞ。では義経殿、しばし屋敷を留守にするがそなたは身体が動くようになるまで居ても構いませぬからな」


嫌がる主さまをずるずる引っ張って無人の牛車に字の如く放り込んだ晴明は、何かとやかましく文句を行ってくる主さまを完全に無視して涼しい顔で扇子を仰いでいる。

その間主さまは頭に上っていた血がすうっと冷めて、ようやくこれから屋敷に帰ってどうなるかと思い知らされた。


「あれ?父様だ。……主さま!?いつの間にお屋敷を出て行ってたの?!」


幽玄橋を渡って幽玄町の1番奥に有る我が家に着いた牛車を出迎えたのは、息吹だ。

今度は牛車を降りるのを嫌がってもがく主さまを文字通り引きずり下ろした晴明は、本当に洗いざらい息吹に話してしまった。


「こやつが屋敷に押しかけてきて、義経殿に宣戦布告をしたのだよ。“息吹に近付くな”とね」


「な…っ、主さま!なに勝手なことしてるの!?どうしてそんなことしたの!?」


「………」


むっつりしている主さまに理由を聞いても何も話さず、勝手なことをして義経と晴明を困らせた主さまに怒り心頭の息吹は、身を翻して夫婦共同の部屋に籠もってしまった。


「晴明…お前…どうしてくれるんだ」


「はて、息吹に話さず勝手なことをしたのはそなたではないのか?私が息吹に話さないとでも思ったのかい?」


「………」


庭にはすでに大勢の百鬼が集まっていたが、このまま息吹から離れるわけにはいかず、内心焦りながらも主さまは皆に声をかけた。


「今夜の百鬼夜行は少し遅らせる」


何故かは、皆わかっていた。
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