赤い月 終
景時は白い歯を見せて、ニヒヒと笑った。
「はーい、ゴメンナサイ。
でも、父さんだってそーゆーコト言うなよ。
俺、父さんも母さんも大好きだよ?」
「…
ソウダナ、悪カッタ。」
さっき頭を叩いた大きな手が、今度は頭を撫でる。
景時があやされる猫のように目を細めると、ゼンキも笑った。
石のようなゼンキの顔の右半分には、表情はない。
左半分だけで笑う。
人によっては、グロテスクに見えるだろう。
そもそもオニなんだから、恐怖以外の何物でもないだろう。
だが景時は、ゼンキの笑った顔が好きだった。
父さんに会えた。
俺を叱って、あやして、笑顔を見せてくれた。
コレ、夢?
幸せな夢を見てるのカモ。
もう少し、寝てよ。
もう少し、このままで…
「ダガ オマエニハ、俺ヨリモ 千景ヨリモ、自分ヨリモ 大切ナ女ガ 出来タンダロウ?
俺ハ モウ死ンデイル。
力ヲ貸セル時間ハ 短イ。
早ク ばしゅらヲ取レ。」