SトロベリージャM
「俺は、君に負けたようだ。だから、君の言うことに従うよ。まず、この契約書は破棄だ。」


さっきまで、とてつもない効力を持っていた契約書が、ただの紙切れとなって破られていった。


家で待機中の仲間たちは、どんなに苦しんでサインしただろうか?


きっと、森と大地を選べなかったわたしと同じくらい、苦しい思いをしただろう。


そう考えると、また涙が溢れてきた。


大地は、何も言わずに、わたしを抱きしめてくれた。


そして、誰にも聞こえないように、耳元で囁いてきた。


「実野里、愛してる。一生、俺のものだ。」


わたしは、背の高い大地の耳に届くように、背伸びをして囁いた。


「大地、愛してる。わたしは‘大地のみのり’だから、離れるなんてありえない。」


そのとき、少し離れた大樹の方から、強い風が吹いてきた。


一瞬、周りが見えなくなって、大地と彼ごしに立つ大樹しか瞳に映らなくなった。


(ミノリノダイチ、ダイチノミノリ。)


そう聞こえたような気がした。


きっと、大地は、大樹の魂が宿った森の王。


そして、わたしは王と森を愛する妖精。


そんな迷信を、勝手に作り上げたわたしの心は、まだ子供の頃と変わっていないようだ。


優しい風の中で、わたしたちはキスを交わしていた。
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