神龍と風の舞姫
とある森の中…

「…ユザ、」

短い草を踏みつつ、周囲を見回していたユザは呼ばれて振り返るとともに声の主の方へ近寄る

「なんだ」

短く問うと、見上げてくる瞳がしゃがめ、と促してくる

湿った草はいい感じに柔らかくなっている

「…ここ、触れてみろ」

主の命令で国外活動をしているユザとともにいるのが、ルノアである

言葉使いは荒いが、主人への忠誠と短刀を操る腕はかなりのものだ

彼女に促され、ルノアがふれている草の上にそっと手を置く

「……これは…」

驚愕の色を映したユザに満足げに頷く

「海斗様の気配だ」

かすかだが慣れ親しんだ気配が残っている

ここに海斗がいて、海斗がここで力を使ったという証拠だ

「…海斗様もお気づきか」

この妙な世界のうねりに

「気づかぬわけが無かろう。海斗様は誰よりも世界の闇を知っておられる。あるいはすでに黒幕を掴んでいるかもしれん」

3年前に突然姿を消した守るべき存在

ずっと探し続けてきた、けれど一向にとらえることのできなかった存在が、ここにいたのだ

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