神龍と風の舞姫
巨人は良くも悪くも単純だからな

何時だったか知り合った巨人族を思いだし、海斗はふと国のある方角を見る

木々でその姿を捕えることはできないが、神経を研ぎすまして探れば、確かに昔とは違った気配を感じる

「幼い子供はいなくなるわ、いい年した大人も突然姿を消すわ、世界はどこに行くのだかな」

嘆くようなつぶやきにしるふと海斗がそっと瞳を細める

一瞬、寂しげな空気が流れた

がさっ、と音がして海斗が座っていた枝から飛び降りる

ふわりとはためいたマントが、衝撃のなさを物語る

「行くのか」

あまり推奨しない声音が頭上から響く

「これで放っておいてここが焼野原にでもなった、なんて風のうわさに聞いたら目覚めが悪いからな」

そういってマントについているフードをかぶりつつ、海斗は踵を返す

「じゃ、またね。森の守り神さん」

ぱたぱたと服の汚れを落としてからしるふは海斗の背を追う

軽く地をけり、ふわっと浮かびあがってから海斗の隣に音もなく着地し、何事もなかったように歩くしるふを海斗も特に驚いた様子もなく連れ立っている

その様子に、二人の過ごした時間の長さを感じて、羊は一人うれしそうに瞳を細めた
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