神龍と風の舞姫
こういう時、顔を知られていないというのはとても楽だ

不振がられることなく国に入れるし、しるふが入れるということは用心棒として隣に居る海斗も入れるということだ

「私ここの国よく知らないけど、なんか重い空気だね」

風の流れには敏感なしるふが、小さく眉を寄せながらそっとつぶやく

森を抜け、巨人族が住まう、というだけあって敷地面積は広い国の大きな門をくぐった

入った瞬間、堕ちてる、と感じた

普通に生活しているように見えるが、流れる空気が違う

淀んでいると言えばいいのだろうか、生きている人の生きる気力のある人の放つ空気ではない

う、と息が詰まったことを感じてしるふは、手を口に当てる

小さく風を操り周囲の空気を動かす

そうでもしないとこのよどんだ空気に自分も侵されそうだ

「中心は、王宮だな」

ふと上を振り仰いだ海斗の視線を追うと、その先にはそびえたつ王宮があった

確かに黒く淀んだ空気が一番強い

「入るの」

「身の危険を感じるならあいつのとこに居ていいぞ」

しるふの声に嫌そうな響きを感じ取った海斗は、フードの下からしるふを見下ろす

「嫌よ」

断固としたしるふの声に

「だったら離れるな」

薄く笑いを宿しながら強い口調で言い放つ
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