恋影
あの時とは違い、二人は隊服を着ていない。そのせいか町の人達も二人が浪士組だということには気づいていない。
いつも通り町は賑わっていた。
「………ここで、いいよな?」
「はい。」
「良いわけないと思うけどな?いきなり彼女を連れ去っといて、挨拶の一つもなしなんて、彼女が可哀相だと思うけど…?」
「総司!」
「……ありがとうございました。では、私はこれで……。」
「白鳴ちゃん。」
先を行く白鳴を沖田が追い掛けて来た。
「これ、忘れてるよ。」
「!」
それは捕まった時に取り上げられていた白鳴の小太刀であった。
「ありがとうございます。」
白鳴はそれを受け取り、腰にさした。
「芸者さんにしては、かなり混んだことをしているね。」
「……!」
「普通は、刀も扱えない人に刀なんて持たせないよね。危険が増すだけだから。」
京の治安は良くない。下手をするば浪士と切り合いになったりもする。それなのに、刀も扱えない芸者が、刀をさして歩いているのだ。
浪士に絡まれても文句はいえない。
「……少しだけなら、扱えるので大丈夫です。」
人を斬ったことはないが、刀を振るうことは出来る。
「少しね……、なんなら僕が君に剣を教えてもいいよ。」
「えっ……。」
思わず沖田を見上げる。すると、後ろのほうから人混みに紛れて、平助の声が聞こえてくる。
「総司ーー!」
「じゃあ僕はもう行かなくちゃ。約束はまた今度ね。」
「……!」
白鳴が返事を返す間もなく、沖田は人混みに紛れて去って行った。
白鳴はその姿を見送り、自分の小太刀に手をやる。
約束はまた次になってしまったが、また沖田に会える気がして、白鳴は微笑むと踵を返して町中を歩いて行った。
とはいえ、白鳴は武市達がいる場所を知らない。雄一知っているとすれば、高杉達がいる長州藩邸だ。
突然いなくなって合わせる顔もないが、一応ちゃんと放免になったことだけは知らせなくてはならない。
白鳴は長州藩邸へと足を向けた。
武市達にもしかしたら会えるかもしれないと思い、白鳴は人気の少ない裏通りを歩いていた。
「おい、兄ちゃん!」
「……?」
「あんたいい刀を持ってんじゃねぇか?」
道の傍らで柄の悪い浪士達がたむろしていた。これがぞくにいう不定浪士という奴らだ。