瑠哀 ~フランスにて~
 瑠哀は朔也の元に歩み寄って来て、ちょっと朔也を見上げるようにした。


「ねえ、そんな顔しないで。

ただの食事だけだから、危険はないと思うの」


 朔也はチラリと瑠哀を見下ろし、またすぐに不機嫌そうな顔をして横を向いた。


 瑠哀は困って、助けを求めるようにピエールを見る。


「サーヤ、君の気持ちも判らないではない。

ルイを一人で行かせるのは危険だ、と言うのも十分判っている。

この場合、危険と言っても両方の意味だろうしね。

だが、これは仕方がない。

―――気をつけて行っておいで」


 ピエールは瑠哀の頬にキスをして優しく瑠哀を送り出した。


 瑠哀が去ると同時に、ピエールは朔也の肩をポンポンと叩いた。


「抑えるんだね、サーヤ。

君がルイを心配する気持ちは、よく判る。

だが、この件を早く終わらせることのほうが先決だ。

わかるね?」


 朔也は苛立たしげに、ドンっ、とドアを叩き、ふいと横を向いて部屋から出て行ってしまった。


 ピエールはそれを見て、小さな溜め息をこぼしていた。


「あの男がルイに手を出さないことを祈るしかないな。

先行きある人間をサーヤが殴り倒すのを見るのは忍びない――――」
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