瑠哀 ~フランスにて~
 瑠哀はピシャリと冷たく言い放つ。

 その表情が無表情に変わっていき、その瞳に突き刺すような冷淡な色が浮かび上がり出す。



「私はあなたに情報をお願いしましたが、私個人のことは別問題です。

このお食事だけではその情報に値しませんか?」


 ヴォガーはふっと微笑んで、グラスを手に取り、少し傾けるようにしてそのグラス越しから瑠哀を見やる。


「いいえ、そのようなことはありません。

ですが、あなたはこのような状況になっても、変わらないのですね。

私はこの情報を使える立場にある、と言うのをお忘れですか?

この情報を使って、あなたを留まらせることもできるのですよ」


「では、お試しになりますか?

私はそのような取り引きを買いません。

私の態度が不遜で、あなたのお気を害してしまったと言うのなら、

私は帰るしかありませんね。

情報が役に立つか立たないかも判りませんから」



 瑠哀は人にものを頼んでおきながら、かなり高慢的な態度だった。

 だが、瑠哀にとっては、この男はその程度の価値しかなかった。

 笑顔を安売りするつもりも、全くない。



 瑠哀は情報があるからこの食事に来た。

 それ以上でもそれ以下でもなかった。



 この男に嫌われようと嫌われまいと、瑠哀の知ったことでない。



 ヴォガーはその瑠哀の態度に気付き、気を取りなおしたようににこやかに笑う。


「この情報は、お役に立ちますよ。

せっかくあなたを呼ぶことができたのに、みすみ逃すようなことはしません。

ご安心ください」


 ヴォガーは横に置いてあった封筒を瑠哀に渡した。
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