瑠哀 ~フランスにて~

-3-

『ルイっ!』


 ポタポタ、と額から流れ落ちる滴が下になっているルイの顔にも落ちて行った。

 そんなことなど構わずに、朔也は真剣なほどに瑠哀を見下ろしながら、

パチパチ、と軽く、またその頬を叩く。



『ルイ、目を覚まして!―――ルイ』



 海上警備隊だと思っていた船に乗り上げられ、

それは実は海軍が使用する偵察艇らしき様相が伺えたが、

朔也は瑠哀を抱えながら、上から男達に引っ張り上げられてやっと甲板にたどりついた。

 そして、すぐに横に寝かせて瑠哀を呼んでみるが、瑠哀はまだ気を失ったままだった。



 あのリチャードに殴られた額の横が薄っすらと切れ、

そこから水に染まって鮮血までもツーッと流れ落ちていた。

 瑠哀の白い肌に赤い線が描き込まれ、ずぶ濡れになった髪の毛やら洋服やらが肌にこびりついている。



『ルイっ。―――ルイ。目を覚ますんだ。――ルイっ』


 瑠哀のすぐ真上で朔也が焦燥も露に瑠哀の名を繰り返し呼び続ける。


『ルイ。目を覚ますんだ。――ルイっ。―――ルイ――』



 必至になってその頬を叩き、意識のない瑠哀の名を呼び続ける朔也の動きが、

一瞬、ふと、止まった。



 焦点の合わないその瞳を開けて、一心に瑠哀を見詰め下ろしている朔也の瞳に、

瑠哀の大きな漆黒の瞳が定まる。



『ルイ』



 自分のすぐ間近にある朔也の顔を認め、一瞬、瑠哀もその瞳を震わせていた。



『―――サクヤ…』

『ルイ。良かった』

『…サクヤ――』


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