瑠哀 ~フランスにて~
 ルイ、とピエールが声をかけ、その手を取った。


「ワルツだ。踊ろう」

「ごめんなさい。踊れないの」

「僕がリードするから、大丈夫だよ」

「それと――、踊らないの」

「どうして?」

「一度そういう先例をつくると、あとで面倒だから……」



 ピエールは奇異なことを言っている、と言う顔をしたが、かまわず瑠哀をホールの中へと連れて行った。

 ピエールは言葉通り軽やかに瑠哀をリードして行く。



「マーグリス氏を探さなきゃ」

「まだ始まったばかりで、誰も帰りはしないよ。

この手のパーティーは、長いからね。

――それより、上手に踊っているよ」

「それは、ピエールのリードが上手いからよ…」


 ピエールは、ふっと、笑っただけだった。



 歩き方を見てもそうだが、ピエールの動きは優雅で洗練されていてそつがない。

 これこそ、完璧の王子さまと踊っている、と言うのだろうか……。



「次は、サーヤの番かな。僕一人が君を独占したら不公平だろうから」



 ピエールは軽くウィンクをした。

 不公平かどうかは知らないが、どうやら、次も踊らなくてはならないようだ。

 まあ、ピエールと朔也だから文句は言えないが…。



 曲が終わりに近づいて、瑠哀はひときわ強い視線を感じていた。

 今までだって、ピエール達を見ている視線をひしひしと感じてはいたが、これは種類が違う。




 敵意?殺意?

 ―――どちらにせよ、好意の感情を持っていないのは、気のせいではないだろう。



(どこ……?)



 曲が終わり、瑠哀は一礼して挨拶をする。


 ピエールが朔也の方を向き、首を振って、来い、と呼んでいる。
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